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【月刊アナリスト ボランチの意識改革】

2023年8月15日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。

中断期間を経て、浦和レッズとガンバ大阪との試合を1勝1分けで乗り切り、首位のヴィッセル神戸と勝ち点で並んでいる状況ですが、今回はいつもの区切りによる分析ではなく、フォーカスするポジションを決めてお届けしようと思います。

それはボランチです。藤田譲瑠チマ選手が移籍したことにより、喜田選手と渡辺選手が中心となることは間違いないですが、このポジションは昔も今もチームにとって心臓部なので、パフォーマンスの出来は重要です。

では、ここ3試合とその前の3試合ではパフォーマンスに違いがあったのかどうか。ここを深掘りしたいと思います。

まず触れるべきは、セルティックとマンチェスター・シティと対戦した親善試合ですね。ど派手な撃ち合いをして2試合合計で9得点9失点だったわけですが、彼らボランチがこの2試合で感じたものは多かったはずです。

まず守備面。特にマンチェスターC戦は、前半と後半で相手がメンバーを大幅に入れ替えたことも影響しますが、後半の相手の守備圧力は相当感じたはずです。これに対して、喜田選手も渡辺選手も同じようにハイプレスで相手のボランチを捕まえに行っていましたが、簡単にワンタッチで外されるシーンがあったりして、「奪えた」という手応えはつかめなかったのではないかと。

行っても外される、行かなければ運ばれる。口で言うのは簡単ですが、それを実行する能力が高かったのは相手の方でした。ここの基準だったり気付きだったりは、冒頭のJリーグでも活かされたでしょう。

そして、今回データも含めて取り上げるのは、攻撃面での変化です。

上記の親善試合が行われる約1ヶ月前の第18節から20節までの括りと、7月15日から8月12日にかけて行われた第21節から23節をまとめて考察します。

21節から23節の間に、上記の海外チームとの親善試合が行われたというスケジュール感です。

さて、横浜FMのボランチは、親善試合前の3試合と、親善試合を挟んでの3試合でどう変わったのか。(図内のデータは出場時間が異なるためすべて「90分換算」として出しています)

喜田選手は18節のみ出場し、19節と20節は欠場しました。変わりに藤田選手が出場し、渡辺選手は3試合すべてで先発出場でした。彼らのプレーエリアは下記です。


データ提供:Opta by Stats Perform

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

喜田選手は1試合のみなので当然ながら示す点は少ないですが、自陣が多く、アタッキングサードはないことが分かります。19と20節で先発した藤田選手は、名古屋戦でゴールを奪うなど、相手のバイタルエリア付近でのプレーも多く、より敵陣で絡んでいたことが見えてきます。

すべて先発だった渡辺選手は、濃くなっている部分が敵陣だとやや左サイドが多くなっています。

では、喜田選手と渡辺選手は直近3試合でどのように変わったか。

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

喜田選手は川崎フロンターレ戦で途中出場でしたが、浦和戦とG大阪戦はスタメン。18節でなかったアタッキングサードでのタッチ数が増えています。渡辺選手は、大外レーンまで顔を出していくようになりつつも、中央のタッチ割合が増しています。よりアグレッシブにボールに絡んでいる証拠でもあり、より高い位置で絡もうとしている意識も垣間見えます。

もう1つ、数字で見てみましょう。

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

これは左上がアタッキングサードでのタッチ数、右上がパスの成功率、右下が縦パスの割合、左下がアタッキングサードへのパス数を円グラフにしたもの。

同じものを21節から23節ので出してみます。

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

喜田選手も渡辺選手も、アタッキングサードでのタッチ数が増えており、アタッキングサードに出すパスも増えています。渡辺選手はさらに縦パスの割合も増えており、より縦の意識、高い位置で関わる意識が増しているのではと推測できます。

G大阪戦では、喜田選手のシュートのこぼれで先制点が生まれたり、彼ら2人の関わりによって生み出されたチャンスも数多くありました。

もちろん数試合の比較ですから、誤差の範囲と解釈する人もいるでしょう。この数値が今後の試合で増すのか減るのか。意識次第で変わるものでもあり、相手にスカウティングされて発揮できなくなる可能性もあります。

親善試合で感じた世界のボランチとの差などを良き経験として、さらなる発展に期待したいですね。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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