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【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.16】

2023年12月29日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回のサッカーの見方は、「選手分析の見方」です。

サッカーの見方の基本的な手法を、ほんの一部ですが当コラムでご紹介してきました。試合としての全体的な視点や、選手個人の細かなプレーに対するものまで。

今回は、選手個人の部分の、対策に関する見方です。

Jリーグのクラブで活動させていただいていた時、対戦相手の分析を担当することが多かったのですが、チームとしての戦術分析のみならず、選手個人の分析をして、対策を個々人に施すこともしていました。

では、選手分析とはどういった視点で行うのか。これもほんの一部ですが、ご紹介します。

それぞれのポジションで見る視点は異なります。

まずはゴールキーパーから。

ゴールキック、両足の精度、飛距離、プレッシャー下でのプレー、ポジショニングなどが攻撃面。ブレイクアウェイのタイミングとスピード感、クロス時の対応力、飛び出し具合、左右の手による弾き方、シュート時のウイークなどが守備面です。

これらは1試合ですべて現れるわけではないので、複数試合を見て分析していきます。キーパーの動きの一挙手一投足を追っている人はあまりいないかもしれませんが、事細かに見ていくと、癖だったり特徴だったりが出てきます。

どのエリアからどういったシュートを打たれると弱いのか、腕の出し方や反応スピードはそれによって異なるかどうかなど、自チームの選手に伝えるべき「得点に直結し得る」ことなので、慎重に見ていきます。

次にサイドバック。

サッカーではよくボールの取りどころという話が出ます。そのターゲットの多くはこのサイドバックです。攻撃面では、そうしたウイークになり得る選手なのかを見ていきます。ポジショニング、ボールの置きどころ、パスの出す先、異なる止め方があるかどうか、パスの種類、ファーストタッチの質、視野の広さなど。守備面でも戦術的にウイークになりやすいポジションでもあるため、1対1の対応のみならず、カバーリングの範囲、逆サイド時の準備力、スピード対応力、反転の仕方など。

同じ最終ラインでも、センターバックとなるとまた見方は変わります。

外に開くことの少ないCBなので、ビルドアップは中央におけるショートとロングの使い分け、相手のプレス強度による変化、持ち運べる能力と判断力があるかどうか、誰に出すことが多いかなど。

守備はキーパーと同様に、得点に直結し得るため、1対1の対応、カバーリングの範囲と早さ、強気に前に出るか否か、横からのボールに対するマーキング、浮き球の処理などを細かく見ていきます。

続いてボランチやインサイドハーフ。

このポジションの選手はボールを多く触ります。必然的に、癖などをチェックします。特に見ていくのは、どういう時にミスが起こるのか。毎試合100%の成功率を記録する選手はいません。数%の世界ですが、そのミスを研究します。

もちろんその他にも、ターンの仕方、視野の持ち方、プレー判断力、パスのレンジ(距離)、守備面の強度、アグレッシブさ、マーク相手との距離感、体の入れ方、抜かれ方なども対象です。

次はワイドアタッカー(サイドハーフやウイング)。

意外かもしれませんが、アナリストが対戦相手の個人分析をする時、ドリブルや特徴的な攻撃シーンは注視しません。トラップの癖は何か、どっち足で止めるか、どこにボールを置きたがるか、どこまで寄せられると慌てる素振りを見せるかなど、ウイーク探しがメインとなります。守備は、どこまで前に出てくるか、逆に後ろにはどこまで戻れるか、奪い切る能力があるか、さぼり癖はあるかなど。

最後にフォワードです。

ボランチとは異なり、フィールドプレーヤーで最もボールを触りません。したがって、より「オフ」の動きを見ていくことになります。受ける前の予備動作だけでなく、相手の誰と誰の間にいるかなどのポジショニング、抜け出す初速のスピード感、エリアなど。これにボールへのアクションを加えていく形です。守備面は多くを見ませんが、プレスの強度や仕方、プレスバックの意識などがメインです。

文字数の関係でそれぞれ概要しかお伝えできませんが、サッカーの見方は多様にある中で、個人分析も各ポジションで様々あります。さらに細かい話は、オンラインサロンでも展開しているので、ご興味ある方はぜひご参加ください。

今回は選手分析の見方についてお伝えしました。

そして、この回をもって、当コラムは最後となります。 1年4ヶ月もの間、ご愛読いただき、ありがとうございました。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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