Feature

【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.10】

2023年6月30日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回は、「ぼかし」というテーマでお伝えします。

この言葉に馴染みのない方もいるかもしれませんが、現場や選手の間では結構頻繁に使われます。

様々な局面で使われるこの言葉ですが、より分かりやすくするために敵陣での守備(プレッシング)を例に図解してみました。

簡単に言えば、誰か特定の1人の相手に対して(マン)マークするのではなく、同時に2人を見るような守備の立ち位置のことを言います。中間ポジションと言うこともありますね。

「ぼかせ!」と言われたら、誰かをマンツーマンのように付きに行くのではなく、誰かと誰かを同時に見ておくようなスタンスを取ります。ここで言う誰かとは、当然ですが自分で両方に対してアプローチを行ける選手であり、距離的に不可能な2人は指しません。どちらにボールが渡っても、走ってプレスに行けるような時に発生します。

これは、数的不利の時や後ろの状態が整ってない時に活用します。例えば、ボールが右サイドにある時の、逆サイドの左サイドハーフの絞り方とかですね。守備の基本として全員でコンパクトにしながらボールサイドに寄ることが多いですが、そうなれば相手次第ではありますが基本的に逆サイドは数的不利となることが多いです。

その状態(外にも相手がいる状態)から、中にいる相手のボランチを見てしまうと外のサイドバックが空いてしまうなどの時に、どっちにボールが出てもアプローチに行ける距離にいなさいということです。

ただ勘違いしてはいけないのが、2人を見ていることだけがぼかすということではありません。実際にボールが出された時に、その受け手に対してアプローチに行けないようではダメなのです。それはぼかしていたのではなく、ただ「見ていた」だけですから。

どちらにも行けるポジショニングでないと無意味であり、「結果的にどちらにも行けませんでした」では前進を許しますし、後ろの味方もその後の対応が難しくなります。

距離感と自身のスピードとを照らし合わせた、最適なポジショニングを見いださないといけません。これは、見ている以上に難しいポジショニングとなります。スタジアムや映像で広い画として見ていれば誰でも分かるでしょう。どこにいれば中間になるか。

しかし、ピッチ上の目線とそれは異なりますから、選手はどこが中間かという把握をするために何度も首を振ったりして確認しないといけません。これができている選手と、できていない選手がいたのであれば、比較してみてください。

図で言うと、左サイドの青の選手はぼかしていると言えますが、右サイドのサイドハーフはできていません。相手のサイドバックを見ているような状況なのと、この図では相手の左センターバックにすぐ行けそうな矢印ですが、実際のピッチでは約20mあります。もしパスを出されても、相手のレベルが高ければ簡単に処理されるでしょう。

ただ、青の右FWの選手が相手の左センターバックにアプローチを仕掛けられるなら話は別です。2対2なので、サイドハーフの選手はぼかす必要がないからですね。

ぼかした方が良いのか、人についた方が良いのかはやはり、数的同数か不利かを見分けられないといけないと。これがピッチに立っている選手がどれだけ把握できるかです。

これをチーム戦術として事細かに設定する監督もいますし、その場のピッチに立っている選手たちで判断するケースもあります。

この図はあまりに分かりやすい事例かもしれませんが、ミドルゾーンとかディフェンディングゾーンでもそれを瞬時に見分けてポジショニングを取れるかどうか。実際に自分がピッチに立っている想定で考えて見られるようになると面白いでしょう。

守備は人を捕まえれば良いというものでもなく、一方で、人を捕まえなければ前進を許したりシュートを許したりします。奥深いですね。

自分にとっていまどういう状況なのか、周りを見ながら判断を変えつつ動ける選手やチームはいわゆる守備が固いと表現されることが多いでしょう。「ぼかし」も1つの個人戦術でありチーム戦術なので、改めて細かくチェックしてみてください。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


Contact

GayaR Magazineへのお問い合わせはこちら

お問い合わせ