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【月刊アナリスト 前期を終えて】
2023年6月21日 |
サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。
上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。
ちょうど半分の17節を終えたタイミングなので、今回は直近の5試合に加えて、前期を振り返ります。
まずは前回からの5節を振り返ります。守備に課題があると提示した矢先、アルビレックス新潟とのアウェイゲームで逆転負けを喫し、4月1日のセレッソ大阪戦以来の負けを記録しましたが、その次に行われたガンバ大阪とのアウェイゲームで4月8日以来の完封勝利。アビスパ福岡との試合でも2-0として今季初めて2試合連続での完封勝利を飾りました。
以降はFC東京と柏レイソルを相手に撃ち合いを制して、4連勝。暫定首位での折り返しに成功しました(1試合未消化のヴィッセル神戸が勝利すると得失点差で2位となるため)。
メンバーを大きく変えることなく、攻撃時は4-2-4、守備時は4-4-2で展開することが多く、いわゆる4-3-3や4-2-3-1という表記は違うのかなとも感じるほど。
GKを含めて下から丁寧かつ大胆に繋ぎながら、前線のアンデルソン・ロペス選手と西村選手が互いにハーフスペースを位置取り、ビルドアップの出口となるように動いているのが印象的です。
あまり細かく記すとスカウティングになってしまうため避けますが、いずれにしても攻撃的なスタイルを曲げずに披露しているのは好感が持てます。
そんな中、直近5試合のデータを並べてみましょう。

他チームとの比較は試合数が異なるため、同時期に行われた中での1試合あたりの平均値としていますが、自分たちが作り上げたチャンスと相手のチャンス数をチャートで表しました。
ポゼッションを高めながらアグレッシブな展開を標榜していますが、チャンス数はリーグ平均に留まり、相手のチャンス数はリーグで3番目に多く作られてしまっています。
撃ち合いが2試合あったのでその影響もありますが、前回の当コラムで記した通り、ボールの失い方、失う位置、攻撃時のリスクマネジメントなどはまだ課題としてあるのでしょう。
技術の高い選手が多いため、繋ぐことに関してネガティブすぎるデータはありません。むしろ下図のように、自陣から敵陣への縦パス成功率はリーグでダントツの1位です。

ビルドアップから敵陣へは上述の前線2人とウイングのキープ力などを生かしながら、非常に効果的にできている証左です。
ただ、縦軸に示したアタッキングサードへの進入数は、サンフレッチェ広島と比較しても向上の余地は大いにありそうです。後期の最初の試合はその広島とのアウェイゲーム。互いのアタッキングサードへの進入方法や質は注目ですね。
相手はこの戦術を分析し、どこでボールを奪いに圧力を強めるかはトレーニングしているでしょう。そのターゲットとされている選手やエリアで上回らなければなりません。特に、下図で示したようにいまやデータでも映像でも、どこでボールを失うことが多いかは分かってしまいます。

もちろん、データでサッカーはできません。これをも凌駕するパフォーマンスによって突き進むことも想像できます。王者とは、そういうものだと思います。
17節を終えて、圧倒的な強さを発揮して(暫定)首位に立っているわけではないと感じています。現状は、柏戦の劇的な逆転勝ちでもそうでしたが、途中出場の選手が違いを生み出し、総力で補っている部分もあります。それも強さの一端ではありますが、前半から圧倒する姿も見たいですね。
ちなみに、17節を終えて、後半残り30分間での得点数17はリーグ1位です。選手交代によってギアチェンジできるのは強みですね。一方で、前半30-45分の失点数6はリーグで3番目に多いと出ています。攻め疲れによる両ウイングのプレスバックが遅くなることをマネジメントしつつ、前回に出したボランチの運動量とデュエルの強さで乗り切れるかなども注目して見ていきたいと思います。
また、リーグで2番目に多い37ゴールを記録していますが、ゴール期待値(xG)は25.2。リーグで6位です。よりゴールの可能性を高めるためのシチュエーション作りは必要でしょう。
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それでは、また次回お会いしましょう。

Profile
杉崎健
1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。