Feature

【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.5】

2023年1月30日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

前回はセットプレーの見方をお伝えしました。今回は、これまでお伝えしてきた90分の攻守+セットプレーの見方を、「リアルタイム」にどう見ていくか。これを、プロクラブ所属のアナリストが実践していることをベースにお伝えします。リアルタイムで何を見ているのかですが、いくつかあります。

・自チームのパフォーマンス確認
・自チーム選手のパフォーマンス確認
・対戦相手の出方の確認と修正点把握
・ピッチ外への目配り
・データ取得と精査
・映像の取捨選択
・ベンチとの交信

リアルタイムですから、映像を見返したりなど巻き戻さなくても分かるようにこれらを把握します。

自チームのパフォーマンス確認

チームとして準備してきたことがあります。相手の対策もそうですし、自分たちにとっては前節からの修正がどこまで行えているか、この試合におけるテーマは何かによって都度違うわけですが、それらをリアルタイムで把握するわけです。

自分たちのことですから、タクティカル(戦術)、テクニカル(技術)、メンタル(精神)、フィジカル(体力)についての基準値があるはずです。それが具体的な数字なのか感覚なのかは監督やアナリストによって分かれますが、その基準値と比べて「今日の試合」はどうなのかを測ります。

自チーム選手のパフォーマンス確認

チームとして見つつ、各選手のパフォーマンスを確認します。その選手はこの試合に向けてどんなテーマがあり、何を気をつけようとしていて、実際に何に困っているのかなどを発見します。

相手の強みがもろ自分のところに直面しているのであれば分かりやすいですが、例えばボランチの選手に対して今日のキーとなる左サイドのケアというのがあるのであれば、それは実際に起こっているのか、起こりそうなのか、起こったら出来ているのかどうかなどを見ます。それをもって、ハーフタイムに話し合うことができます。

対戦相手の出方の確認と修正点把握

相手に対しては事前にスカウティングと呼ばれる分析を行っていると思います。それに対して「その通りなのかどうか」を見ます。それは試合が始まってからもそうですが、ウォーミングアップで確認することもあります。

実際に始まった後、もし想定外だった場合、ピッチ上で大掛かりな修正をするのは難しいです。個別に行ってしまうと全体としてはバラバラになってしまう可能性もあります。そういった時はハーフタイムで修正を施すしかないため、そのための素材(映像やデータ)を記録しておきます。

攻守において修正点を把握するだけでなく、それは相手にとっても分かりやすい事例なので、修正の仕方は工夫が必要です。相手に分かられないように修正しないとですし、それを上回る修正が必要になってきます。つまり、相手の監督やアナリストがそれを見てどう判断するかさえ読むのです。

ピッチ外への目配り

ピッチ内で起こっていることだけにフォーカスしません。ベンチの反応だとか、控え選手のウォーミングアップのタイミングや、アップのペースアップした選手が誰かまで追うように見ます。

選手交代のためにウォーミングアップしている控え選手をベンチに呼んだ場合、その後、その選手はどのコーチと話しているのか、それはセットプレーの確認なのか戦術的な話なのかまで追ったりしてベンチに伝えることもあります。

データ取得と精査

これらピッチ内と外を確認しながら、自らデータや映像を取得できるのであれば行います。データとはゴールやシュートやクロスといった単純なものから、球際の勝敗数やボールを奪った位置、Zoneの進入割合など様々できます。

取得の方法はいくつかあります。紙に正の字で書いたり、ダートフィッシュのようにアプリにタップしながら取得したり、スポーツコードでコーディングしながら行ったり。方法はチームやアナリストによって異なります。大事なのは何を取得するかではなく、そこから何を発見して何を現場に落とし込むかです。

この試合のテーマとして相手の左センターバックをつり出してその裏を狙うというのがあれば、それが出来た回数と狙った回数で割合を出すこともできますし、そのシーンをタグ付けすることもできるでしょう。それがデータ化されれば、ハーフタイムや試合中であっても監督やコーチや選手に提言できるからです。

映像の取捨選択

ハーフタイムにおける「フィードバックのリアル」は、選手に映像を見せられる時間は限られます。5分も6分も映像を見せていたら選手は後半に向けた準備ができません。1〜2分で「ズバッと」言えるものがベストです。そのためには、見せたいけど見せられないものが出てきます。その映像は全体では見せず、個別に見せようと決断して「捨てる」こともあるでしょう。決断力が必要になってきます。

ベンチとの交信

チームや監督の意向によって違いますが、スタンドの上にいるアナリストとベンチとの交信において、以前より緩和された部分があります。

ベンチ内に通信機器やデバイスを持ち込んで良いことになったので、インカムでなくても携帯で電話したり映像を送ったりといったこともできるようになりました。90分における見方の全部を交信するものではありませんが、基礎的な見方が整っていないとスムーズなコミュニケーションが生まれません。試合を見ながら同時に誰かと会話して修正点を確認し合うのは高度です。

こうした内容を、プロクラブのアナリストたちはスタンドの上部で行っています。読者の方々が同じように行う必要はないかもしれませんが、サッカーを見る時の視野を広げたい方はぜひ実践してみてください。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


Contact

GayaR Magazineへのお問い合わせはこちら

お問い合わせ