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【月刊アナリスト 残り5節に向けて】

2023年10月17日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。

前回はセンターバック(CB)の縦パスにフォーカスしてお届けしました。そして、首位攻防戦となった直接対決では、ヴィッセル神戸を相手にホームで零敗。勝ち点差が4に開いてしまった状態で残り5節となりました。

今回は、その神戸戦やアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の振り返り、そしてリーグ戦の残り5試合に向けて、データを交えてお送りしたいと思います。

まず首位との直接対決ですが、いつものようにポゼッション率では59.6%と相手を上回り、押し込む時間もありました。ただ、アタッキングサードでのパス成功率が神戸の81.2%に対して74.7%だったように、さらに、ペナルティエリアの外からのシュートが増えてしまったことも含めてゴール期待値(xG)は高まらず0.62。PKとCKで失点を喫して敗れてしまったことは痛恨でした。

一方で、前回の当コラムで取り扱ったCBの縦パスに関しては、改善も見られましたね。精度が上がることでアンデルソン・ロペス選手らに収まり、アタッキングサードまで進入する回数も多かった印象です。

今季のデータを見ると、ビルドアップからペナルティエリアに進入した回数がリーグ2位。ずっと試みているGKを使ってのビルドアップや、CBからの配球によるアタッキングサードへの進入はできています。


データ提供:Opta by Stats Perform

ACLの山東泰山戦でも、角田選手から始まったミドルサードからのビルドアップで、エウベル選手のワンツーから水沼選手の決勝ゴールが決まりました。

仁川ユナイテッドが連勝したことと得失点差によって3位となっていますが、カヤFCとの連戦で勝ち点6を取れれば十分に突破は可能でしょう。

そして、ルヴァンカップの準決勝を挟み、リーグ戦は残り5試合。ついに佳境を迎えます。

神戸との勝ち点差を考えれば1敗も許されない状況の中、いかにアタッキングフットボールを貫いて勝ち続けられるか。

少し、横浜FMにとって嫌なデータをご紹介します。

データ提供:Opta by Stats Perform

実は、今季はアタッキングサードに進入した総数で言うとリーグ11位。意外に入れていないことが分かります。

先程のビルドアップからペナルティエリアに進入した回数は多かったですが、それは試みていない(例えばロングボールでアタッキングサード進入を狙う)チームもあるので、相対的に試みているチームが上に位置します。

ところが、どのチームも点を取りに行くのは変わらないため、アタッキングサードに入れたかどうかは相対的にフラットに比較できます。これがリーグ11位というのは、優勝を狙っているチームにとっては少ない数字。

データ提供:Opta by Stats Perform

事実、2022年はリーグで1位の実績でした。相手は横浜FMを分析しますし、スタイルが明確だからこそ対策もしやすくなります。今季はここに苦労しているように見えます。

それでもリーグ最多得点を取れているため、進入できればチャンスを創出できている証ですね。では、少し深掘りすると、何がより課題なのか。

データ提供:Opta by Stats Perform

これは相手のカウンターアタックを受けてしまった回数をランクしたもの。今季はリーグワーストの数字。つまり、最も多くショートカウンターを受けてしまっているということです。ちなみにこのデータの定義は、自陣でボールを失い、7秒以内にディフェンディングサードに進入されてしまったものとしています。

攻撃面で良さを発揮できている一方、表裏一体で失ってピンチを招くことも多くなっているのが課題です。

だからといって、スタイルを捨ててロングボールで回避しろという提言は安易かなと感じます。先日の日本代表戦もそうですが、いかにピッチ上の選手たちが即座の配置転換や微妙なポジショニング修正で相手を困らせることができるかどうか。

残り5試合は、これまでより1点の重みを感じるでしょう。自陣で失うケースを極力減らすためのポジショニングや状況判断、前線の選手たちの収まりなどは間違いなくテーマになるはず。

前々回のボランチの関わりと、前回のCBの縦パス精度も絡んでくるでしょう。北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡、セレッソ大阪と守備に特徴・定評のある3チームとの試合は、優勝を狙う上でも、上記の課題を克服する上でも重要となります。どんな内容と結果になるのか、期待したいですね。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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