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【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.13】

2023年9月30日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回のサッカーの見方は、「縦パスと横パスの意味を見る」です。

サッカーにおいて「どこでパスを出すか」は重要ですが、どこだとしても「方向」が絡んできます。攻める方向が決まっているので、そこを軸にしながら前後左右が生まれるからです。

ただ、お察しの通り、どこであってもどの方向であっても、考えるべきは相手がどこにいるのか、ですね。であれば、前後左右のパスそれぞれにおいて、「意味のある」ものか「意味のない」ものかが出てきます。

つまり、相手にとってどうなったら意味があるのか。これを見ていきましょう。

まず横パスから。「意味のない」横パスとはどういったものでしょうか。

例えば、相手が動かなくて良いもの、相手が困らないもの、相手の守備がズレなくて良いものとかですね。

相手の2トップの前で、センターバック間で横パスをするケースを想像してみてください。相手の守備がボールに行く戦術でなかった場合(ミドルブロックやリトリートと呼ばれる)、この2トップはそうした横パスでは動きません。縦に入れさせないようにしているので。これがハイプレスを施行している相手なら話は別ですけどね。

相手が動かない、困らない横パスは意味のないものになってしまいます。ただ、同じ場所で同じ横パスでも、その後で「縦パスを出させるための意図」が垣間見れると話が変わってきます。それは、パススピードが速かったり、受け手の利き足にピッタリ入りそうだったり。

そうしたパスを見ると相手は「マズイ」と感じます。行かないと縦パスを入れられると思うからです。

そう思えば、その縦パスを入れさせないためにズレます。守備者としては、奪えそうだったり突破されそうだったりした時に、アクションを起こします。

意味のある横パスとはそういうケースの時に発生します。相手が動かざるを得ない、次のパスで縦パスが入りそうな気配がある、自分のポジションを捨てて行かないと簡単に運ばれてしまいそうなど。

例えば図の下の方のパターンもそうですね。サイドバックからボランチに横パスが入ると、守備者側は遠い方のボランチが出るわけにもいかず、動いて封じなければ真ん中から縦突破されそうですね。なので、赤の選手は動くでしょう。

もしそのパスで動かなかったのであれば、困っていない、想定内ということになり、同じパスでも「意味のない」ものの部類に入ってしまいます。

縦パスに関しても言えます。

意味のない縦パスとは、相手が困っていない、受け手が後ろ向きのために怖さがない、出した後の展開ができないなど。こちらは、出し手のみならず受け手が絡んできます。もちろん横パス時も受け手が後ろを向いてたり相手が来ているのに出したりなどはありますが、味方が後ろを向いている状態なのに横パスを出す時点で意味がないのは分かると思います。

一方で縦パスに関しては、後方を向いていたとしても意味のあるものになり得ます。相手がその縦パス自体を嫌がって出てきた時です。それによってスペースが生まれ、周囲が動きやすくなるケースがあります。そうなると、受け手が後方向きだったにも関わらず意味のある縦パスになると。3人目(=レイオフ)で崩すケースとかに良く見る形です。

出し手と受け手が有利になり、相手が不利の状況となる時、その縦パスは有効だったと言えます。当たり前ですね。ただ、その当たり前を、1つ1つの横パスや縦パスが有効かどうかを計測しながら見るのも楽しみ方だと思います。人によってパス1つの評価も違うでしょう。そうしたパス1つというディテールにこだわっているのはプロ選手たちなので、見る側も細かく見ていければ、またサッカーを見ることが楽しくなると思います。

今回は縦パスと横パスの意味についてお伝えしました。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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