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【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.9】
2023年5月31日 |
サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。
今回は、「トラップの角度による相手への圧力」というテーマでお伝えします。
サッカーにおいてパスと同等の数を記録するプレーとも言えるのがトラップです。パスはワンタッチがあるのですべてトラップで止めるわけではありませんが、ワンタッチでなかった時や守備時プレーでなかった時はおおよそすべてトラップが入ると思います。
このトラップにおいて、皆さんは何を見ていますか?
止め方が上手・下手だけを見ているわけではないと思いますが、この中で、角度を見ましょうというお話です。
たった1つのトラップで、(対峙している)相手に圧力を与えることができます。
(図:トラップの角度による相手への圧力)

例えば図のようにセンターバック(CB)からサイドバック(SB)がボールをもらい、トラップしたと仮定しましょう。このSBがどこにトラップしたか、どの角度で止めたかによって相手に心理的要素やポジショニングに影響を与えるものが異なります。
1.後ろ向きにトラップ
相手のプレスのスピードにもよりますが、何らかの理由で後ろ向きにトラップした場合、守備者側が優位になります。前にトラップしないということは自分のプレッシャーを感じているなと思い、次に同じようなシーンだとしても自信を持ってプレスに行けます。引っ掛けられなくても、弱気な姿勢を感じ取ることができるのです。
こうなってしまうもう1つの原因は、CBからのパスがズレる時です。図は左のSBに出したものなので、そのSBの「右足」にパスが出た場合、後ろ向きに止めてしまう可能性が増します。なぜそのトラップになってしまったのかを見ることもできますね。
2.横向き(中に)トラップ
一見すると相手にとって厄介なトラップの仕方です。中から突破されそうですし、自分(守備者側)のポジショニングが悪ければ縦パスが入ってしまうかもしれません。あるいは、サイドを変えられる可能性すらあります。ただ、もし引っ掛ければそのままの勢いで相手ゴールに迫れるのと、仮に自分たちの2トップを使って挟み込めることも考えられるのでチャレンジはしやすくなり、次に同じことをしそうだと予測してプレスにも行けるでしょう。
攻撃側からすると、この角度のつけ方はチャレンジングですが、相手を外せれば中盤で優位性を作ることもできます。このSBがどちらの足が利き足かでその後の話も変わってきます。もし左利きで左足でボールを突く場合、相手のプレス者の方にボールがあり、触られるリスクが伴います。この角度をつけて止めるケースがあった場合、その後のタッチ足を見てみると良いでしょう。
3.前向きトラップ
前と言ってもその角度にもよりますが、正面に止めた場合、自分と相手の間にボールがあるので奪われるリスクが発生します。ただ、もし先に触れる位置に置けた場合は、縦パスを含めてひっくり返せる可能性があるので前進できます。しかも、後ろ向きと違って強気であることが相手に伝わるので、守備者側からすれば次も同じようなシーンが出た時はひっくり返されるリスクを考えながらアプローチに行かないといけなくなります。
前向きに止めることは勇気がいります。失う可能性が高まるからですが、それを恐れずできる選手かどうか。このトラップ1つの角度から分析することもできます。
これらも、どこからどれくらいの強さのパスが来たのか、相手との距離はどれくらいだったかなどで変わるので、都度、見るべきポイントは変化します。毎回必ず前向きにしないといけないものでもないですからね。
ただ意外にも、前向きにトラップされる方が守備側は「止まる」ことが多く、後ろ向きにトラップされる方が「止まらず」にプレスに行っていることが多いでしょう。
これらはCBからSBへのパスという事例でしたが、どの局面においても見ることは可能です。1試合に500以上のトラップが記録されることはプロの試合では当たり前ですが、そのすべてにおいて角度がどうだったか見ながら試合を観戦することは難しいかもしれません。2タッチ以上することもありますからね。見ることは多数あります。
それでも、まずはファーストタッチであるトラップについて、どの角度で止めると良かったのか、考えながら見ることにチャレンジしてみてはどうでしょうか。
ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。
それでは、また次回お会いしましょう。

Profile
杉崎健
1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。