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【月刊アナリスト 12節を終えて】

2023年5月16日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。

8節から12節の横浜FMは、3勝2分けで負けなし。ヴィッセル神戸や名古屋グランパスの上位陣との対決や、ゴールデンウイーク含めて過密日程でありながらのこの成績は、悪くなかったでしょう。

今回は、この間の5試合をベースに振り返ってみます。

データ提供:Opta by Stats Perform

ACLの関係で浦和レッズや浦和の対戦相手は消化試合が異なりますが、この5試合での勝ち点を最も稼いだのは鹿島アントラーズ。そこに次ぐ2位となったのは横浜FMです。負けなかったのは横浜FMと名古屋のみ。優勝争いを演じ続けることは、負けないことで成し得ます。

神戸戦の逆転や京都サンガF.C.戦の大勝などで得点は多く記録されましたが、無失点試合がなかったのは選手も意識しているようです。

データ提供:Opta by Stats Perform

圧倒的にボールを保持してきたこれまでと異なり(昨季はリーグ1位)、今季は守備時にミドルブロックを組むことも多く、それがポゼッション率の低下という数字としても現れています。この5試合の間も、ポゼッション率はリーグで4番目。これは悪い数字ではないものの、チーム内の見解もそうとは限りません。

ただ、攻撃面において悲観する必要がないのは、多くのチャンスを作れていること。1試合平均で10回を超えるチャンス数は、3分の1の6チームだけ。ここから、1試合平均2.4点という高い数値もたたき出せているので。

課題は、守備です。

データ提供:Opta by Stats Perform

この5試合における1試合あたりの相手のチャンス数は、リーグで5番目に多い数字です。ポゼッション率がリーグで4位でありながら、相手のチャンス数が多いとなれば、失い方、失う場所、リカバリーへの反応の早さ、リスクマネジメントなどが挙げられます。

自陣でのロストシーンはいくつも回想されるくらいありましたし、相手の守備を回避できずにスローインになってしまうシーンもいくつもありました。

この5試合に限らず、相手のハイプレスに対する打開策を見いだせずに完敗となったアウェイの北海道コンサドーレ札幌戦の教訓も含めて、残り3分の2試合をどう乗り越えるのか注目ですね。

そこで少し、細かいデータを見てみます。

データ提供:Opta by Stats Perform

これは、今回より前の3から7節までの5試合における「1対1で負けた」プロット図です。比較がないと分かりづらいと思うので、8から12節のも載せてみます。

(図:5.1対1 Lose 8-12 Sec.)

データ提供:Opta by Stats Perform

3から7節は8から12節より成績は悪く、2勝1分1敗でした。しかし、1対1のデータを比較すると、8から12節の方が「ディフェンディングサード」での負け数が多い。自陣での1対1の勝敗は失点にも直結し得るため、また、このチームの基盤である強度を示す上でも重要です。

その意味では、特に毎節のようにスタメンが変わっていた右サイドバックは懸案事項かもしれません。もちろん、このデータは右サイドバックを指しているわけではありませんが、明らかに右サイドでのプロット数が異なるので、注視すべきでしょう。

また、もう1つ気になる点は、アタッキングサード(特にペナルティエリアやその脇のエリア)での仕掛けが圧倒的に少なくなっていること。後述しますが、1対1で勝ったプロット図と合わせて見ると分かりやすいでしょう。

一見すると8から12節は負けた数が少なくて良いのかと思わせますが、勝っている数も少なく、母数がなかったことを表しています。

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

3から7節では、負けてしまった数もありますが、勝っているシーンも数多くあり、攻めの姿勢が見えます。1対1は、仕掛けないと起こり得ませんからね。パスで回避したり迂回したりすれば発生しませんから。

8から12節のデータを見ると、アタッキングサードの空洞が目立ちます。

1対1を発生させなくても、アーリークロスやファーストタイムクロスで決定機を作り出せている部分はありますが、それも徐々に相手に対策されてきます。こちらも、特に右サイドが寂しいデータになっているので、懸念なのでしょう。

11節からヤン・マテウス選手がスタメンに名を連ねているのも、関係ないとは言えなさそうです。

一方でポジティブな要素は、喜田選手、渡辺選手、藤田選手でボランチをローテーションしながらも、中央での1対1で負けるシーンが少なく、勝つシーンを増やせていること(図参照)。

運動量含めて生命線ともなりつつあるボランチを軸に、中盤戦も勝ち越しながら優勝争いを演じ続けられるでしょうか。また、右サイドの人選はどうなっていくでしょうか。毎試合、彼らの1対1にも注目しながら見ていきたいですね。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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