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W杯カタール大会のテクニカルレポートを考察

2023年5月3日 |

第13回フットボールカンファレンス @ 神奈川県・パシフィコ横浜
2023年1月14日(土)
テーマ: FIFAワールドカップカタール2022 テクニカルレポート

第13回フットボールカンファレンスが1月14日、15日にパシフィコ横浜およびオンラインで行われた。初日のテーマはワールドカップカタール大会についてのテクニカルレポートで、技術・戦術的分析が発表された。

今回のワールドカップの特徴は、ヨーロッパのシーズン途中に行われた大会であること。中東カタールで行われたコンパクトな大会であること。5人交代制が導入された初めての大会であることの3つで、選手のコンディションが非常によく、移動の負担が少なく、5人交代をうまく活用することでインテンシティを落とさず最後までハイパフォーマンスを続けられた大会だった。また、アジアは初めて3チームがノックアウトステージ進出、モロッコの躍進でアフリカは初のベスト4など、強豪国とそれ以外の国との差が縮まってきた印象で、出場国がなかったオセアニア以外の各大陸のチームがグループステージを突破した。

今大会で生まれたゴールは172と史上最多だった。約4分の1にあたる46ゴールがセットプレーからで、PKが17(失敗が6)、CKからが16、FKからが13(直接ゴールは3)という内訳となっている。高校サッカーで観られるロングスローからのゴールは0だった。

オープンプレーからのゴールは126で、ポゼッションしてのゴールが86、トランジションからのカウンターからは40だった。守備のカウンタープレスの強度が上がっている中で、最終ラインからビルドアップしてゴールへつなげる技術が高く、ボールを失う場面は少なかった。実際、相手ゴールに近いエリアで奪ってのショートカウンターは多くなく、GKがボールをキャッチしてのロングカウンターでも、正確なボールコントロール、周りをみる能力の高さ、サポートの早さ、高速のカウンターでもミスをしないスキルが目立っていた。

ゴールへのアタックは守備を固めた中央を避け、サイドにボールを集めてクロスを入れるサイドアタックが多かった。日本代表が右の伊東、左の三笘が仕掛けてゴールにつなげたニア、その外側のワイドからのクロスから8割に当たるゴールが生まれている。そして、ゴールを決めたシュートはほとんどがツータッチ以内だった。

ワールドカップレベルでは、正確なパスアンドコントロール、素早いターンで、自らがプレーする時間とスペースを確保することが絶対条件。味方へのパスが5㎝ずれるだけでもプレーによどみが出る。強いパスをワンタッチでコントロールして前を向けなければ守備の網に囲まれてしまう。育成では普段から意識づけを行い、敵チームのマーカーが薄い方の足へパスを出したり、声出しでサポートしたり、ターンの無駄をなくす動きを反復して練習することが必要だろう。正確性を上げるプレーは繰り返し行わなければ上達しないため、いかに飽きさせることなく練習するかは課題となる。オランダでは4対4のゲームを行うことで、全員がボールタッチできる機会を増やし、トライアングルを作りやすい状況にして、サッカー脳を鍛えている。こうして、ボールスキルをあげるだけではなく、周りを見回して把握する力、トランジションのときの動き、ボールのこぼれを予測する能力を高めることも必要となる。ボールスキルが完璧で、ゲーム状況を読む能力が高ければ、日本代表だけではなく、ヨーロッパのサッカーシーンでチャンピオンズリーグを戦うトップオブトップを争うクラブでも中心選手になれるはずだ。
守備に関しては、コンパクトな守備陣形で相手のスペースを潰し、相手ボールを奪いにいく戦術が多くのチームで採用されていた。中盤の選手はカバー能力、インターセプトのための予測力の高さがあり、走り回っても運動量が落ちないスタミナがあった。普段からチャレンジアンドカバーの練習をしていて、リスクが高いときには粘り強くスペースを埋めて対応する我慢強さもあった。

日本代表に関しては、攻撃でも守備でもできている部分もあり、足りない部分もあった。ボールスキルはもっと高めていくべきであり、視野も広げる必要がある。戦術理解でも足りない部分は多くあった。それでも、ロシア大会から4年経って、より強くなっているのは事実だ。基礎スキルを上げつつ、世界最先端の戦術を取り入れる。難しいことではあるが、優勝したアルゼンチン、準優勝したフランスのレベルに追いつくために繰り返し高めて行かなければならないことだろう。

Profile

今里浩紀

1968年愛媛県生まれ。JFA公認C級コーチ。1982年ワールドカップスペイン大会と「キャプテン翼」でサッカーの面白さに目覚める。出版社で編集者として活動、現在はフリー。


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