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【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.8】

2023年5月2日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回は、最近の世界のサッカーもあわせて、トップに居座るチームの特徴として「Take On」のデータを中心にお届けします。

TakeOnとは簡単に言うと、ボールを保持した状態で相手を抜こうとする、倒そうとするアクションのことです。いわゆるドリブルがイメージに近いでしょうか。提供元であるStats Performのデータの項目名がこれでしたのでそのまま使用しています。

一時代を築いたバルセロナに影響を受けた日本のクラブは多数あります。それはポゼッション型で、パスワークを中心とした崩しをメインテーマに、相手をボール保持率も含めて圧倒して勝とうという哲学を真似ようというもの。昨年のJリーグも例に習い、優勝した横浜FMはポゼッション率でリーグ1位でした(横浜FMがバルセロナの真似をしたという意味ではありません)。

ところが今季、9節を終わった段階でのポゼッション率は上から川崎、横浜FM、G大阪ですが、成績はどこも首位とはならず。川崎とG大阪に至っては下位に甘んじています。ポゼッション率と勝敗に相関関係はありません。

サッカーを見る上で、どうポゼッションしているかを見るのも娯楽でしょう。選手の配置、動き、タッチ数、空間の使用有無など、見るものは多数あります。一方で、個人にフォーカスするとポゼッション型で際立つのは「止める、蹴る、運ぶ」辺りとなるでしょうか。

しかし、サッカーはそれだけではありません。目の前の相手をかわす、抜くという行為も許されています。今回はその「Take On」に注目したというわけです。

さらに、そのTake Onはどこですべきか。サッカーのセオリーで言えば、自陣のペナルティエリア付近でTake Onをすることはかなりリスクがありますね。失えば即失点に直結し得るからです。当然ながら、相手ゴールに近い方のエリアで、チャンスメイクの一助として使用したいもの。そこで、「敵陣でのTake On」と「その成功率」でScatter Chartを作成してみたのが図1です。

(図1:TakeOnAttHalfJLeague)

データ提供:Opta by Stats Perform

右にいくほどTake Onの実数が多く、上にいくほど勝率が高いことを指します。ダントツで数も勝率も高いのはG大阪です。両ウイングに縦にも中にも仕掛けられる選手を置き、幅を使って仕掛けるスタイルは一目瞭然のデータとして現れています。次いで、こちらも3トップを採用することが多いFC東京や、積極的にSBがサイドで絡む鹿島、そして首位の神戸が位置します。

一方でワイドに中盤タイプを起用することもある浦和や、ウイングを配置しつつもSBのアーリークロスやサイドからのワンタッチクロスが目立つC大阪などが左下のグループとなりました。

これと同じ項目で、世界の各国リーグを見てみます。

(図2:TakeOnAttHalfPremier)

データ提供:Opta by Stats Perform

まずはイングランド、プレミアリーグです。直近の頂上決戦でも激しいバトルを繰り広げたアーセナルとマンチェスター・シティは当然のように右上にグルーピングされながら、不振にあえぐチェルシーも右上グループに。興味深いのは三笘選手が所属するブライトンですね。三笘選手自身のデータも含めて、リーグで最も勝率が高いと出ています。

(図3:TakeOnAttHalfBundes)

データ提供:Opta by Stats Perform

次にドイツ、ブンデスリーガです。こちらは分かりやすく首位と2位チームが圧倒的な数値を残しています。リーグ3位のウニオン・ベルリンが最も少ないのは興味深いデータですね。逆に、最下位のヘルタ・ベルリンは右上に属しています。

(図4:TakeOnAttHalfLaLiga)

データ提供:Opta by Stats Perform

続けてスペイン、ラ・リーガです。こちらもドイツと同じく、首位と2位が右上。アトレティコやベティスより勝率は低いようですが、数で圧倒しています。久保選手が所属するレアル・ソシエダは、数こそ上位ですが、勝率が下から3番目。彼のさらなる奮起にも期待したいですね。

(図5:TakeOnAttHalfSerie)

データ提供:Opta by Stats Perform

最後にイタリア、セリエAです。文字数の関係でその他リーグを掲載できないのは心苦しいですが、ご興味あればお問い合わせください。イタリアだけが唯一、2位チームが右上に属していません。ラツィオですね。あるいは3位のユベントスもでしょうか。インテルに至ってはTake Onの数が最少でした。

このように、各国の「攻撃時の」Take Onを見ると、やはり基本的には右上に属しているチームが上位にきている傾向にあります。当然ながら、これは攻撃だけなので勝敗とは無関係ですし、守備の話も関わってきての勝ち点ですから、右上に属していれば良いというものではありません。

ただ、サッカーの見方としてお送りしている当コラムの焦点で言えば、今後の見方として各チームのTake On=相手を「敵陣で」抜こうとする、抜けたのはどれくらいか測っても面白いかもしれませんね。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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