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【月刊アナリスト 7節を終えて】

2023年4月16日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。

オリジナル10同士の対決となった鹿島戦では、松原選手の豪快なミドルシュートで先制して2-1と勝ち切りました。この試合のxG(ゴール期待値)は0.7で相手が1.1でしたので、盤石ではなかったことを物語っています。

データ提供:Opta by Stats Perform

図はこの節におけるポゼッション率とパス成功率のScatter Chartですが、相手よりボールを持ち、リーグ平均以上のパス成功率を記録していることは分かります。やはりそこから、どれだけ前を選択しチャンスを作り出せるか。

相手よりボールを支配していたにも関わらず、パスを受けたヒートマップ図を見ると相手と大差がありません。これをいかに増やしていくかが見えた試合でもありました。

データ提供:Opta by Stats Perform
データ提供:Opta by Stats Perform

続くC大阪戦でも似たような現象が起こります。

圧倒的なポゼッション率を記録して66.0%はこの節の最高値。しかし、チャンスの数は相手より下回りました。

データ提供:Opta by Stats Perform

攻撃がうまくいかずとも、相手にボールを繋がせず、ペナルティエリア内に進入させなければ失点する確率が下がるわけですから、当然ながら失った後のリアクションが大事になります。

データ提供:Opta by Stats Perform

ボールを失ってから相手に5本以上繋がせてしまったのは3回で、それはリーグで最も少ない数値。これはまさにストロングですね。即時奪回を目指して失ったらすぐに奪い返しに行く守備。だからこそ、よりボックス内の守備を強化できれば、さらに向上するのだと思わされます。

そして、唯一土曜のナイトゲームとして行われた「横浜ダービー」では、5-0と快勝を収めました。

データ提供:Opta by Stats Perform

互いに多くのチャンスシーンを作り出すオープンな展開にもなりましたが、そうなると前線の選手の「個の質」が高い横浜FMに分がありましたね。

戦術的に深堀りするとスカウティングになってしまうため避けますが、上記のデータから読み解けるように、守備ではすぐに奪い返し、攻撃では保持しながら複数得点を奪いに行くのがスタイルです。

その意味でも、ダービーで今季初の3得点以上での勝利を挙げられたのは好材料でしょう。それでも課題は多いはずです。

ボックスの中にどれだけ入っていけるか、ボール保持が目的とならずチャンスに繋げるためにどう動くか、奪い返す回数を増やしつつも自陣ボックスの守備強度を高められるか。

4月の残り試合は、どこも守備に定評がある相手です。札幌やC大阪に敗れた経験から、再び浮かび上がってくるのは自陣から敵陣へどれだけの精度を持って繋いでいけるか。これを実現できずに苦しんだのが2敗を喫した試合内容でした。

データ提供:Opta by Stats Perform

最後にこの図を載せました。これはX軸に自陣から敵陣へのパス成功率、Y軸にアタッキングサードに進入した攻撃回数を示したものです。このデータだけ7節の合計から算出しています。

ここから見えるのはやはり、自陣から意図を持って繋ぐことを実践していて、その精度がリーグで2位のものであること。それでありながら、アタッキングサードに進入した攻撃回数はリーグ平均以下なので、敵陣での積極性と精度が不足していることです。

どんな相手でもアタッキングフットボールを展開するのならば、自陣からミドルサードまで繋ぐだけでは意味がなく、アタッキングサードにどんどんボールも人もなだれ込んでいかなくてはなりません。

「今は行くべきではない」との判断から、迂回を使ってサイドチェンジしたり、バックパスで時間を作ったりを繰り返せば、アタッキングサードへの進入回数は減ります。ポゼッションは高まります。しかし、チャンスは増えません。

ある意味では当たり前ですが、実際にプレーしている選手たちは目の前に相手の守備ブロックがあるわけで、簡単に差し込めば失ってカウンターを受けるリスクを抱えていますから、安易に前につけなくなる心理が働きます。

これを打破するには積極性ですね。それでもつけていく、出した後でもぐっていく、追い越していく作業が必要です。

リーグ2位の走行距離を記録しているように、動き回れる走力を兼ね備えているのがこのチームなので、特に攻撃面におけるアタッキングサードへの積極性を伴った動きに注目したいですね。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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