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【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.7】

2023年3月31日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回は、J1の5節までの小まとめとして、「データを使った見方」についてお送りします。

サッカーにおけるデータは様々ありますが、今回はベーシックなものから少し深くしたデータをご紹介します。ゴールやシュートなどはJリーグの公式ページで確認できるので割愛しています。まずはポゼッション率から見ていきましょう。

データ提供:Opta by Stats Perform

トップは川崎。次いで横浜FCとなっており、この2チームだけが60%を超えています。逆に鹿島や名古屋などが低い数値となっています。これらから見えることは、最近はよく言われるようになりましたが、ポゼッション率と勝敗の相関はないということです。むしろ、ポゼッションが大事と言われていた時代は過ぎ、いかにゴールへの意識を高めているか。この4チームの得点数は大きな差がなく、ポゼッション率で高い2チームは下位に低迷し、名古屋は2位です。もう少し見れば、福岡は4位、神戸は首位です。

ただ誤認は避けたいもの。ポゼッション率を下げれば上位にいけるということではありません。あくまで「相関はない」のです。

これを踏まえ、攻守のデータを深堀りしていきましょう。まずは攻撃です。ポゼッション率はどれだけボールを持っていたかです。では、そこからどれだけチャンスを作っていたのでしょうか。

データ提供:Opta by Stats Perform

同数で湘南と広島が最も多くのチャンスを作り出しています。この両チームのポゼッション率は中位でした。互いに効率の良い攻撃ができていると言えるでしょう。一方で、ポゼッション率が4位の鳥栖は、チャンス数が最少。課題はアタッキングサードへの道筋とそこでの精度なのでしょう。

チャンスとは、ペナルティエリアの外でシュートを打つケースもあり得ますが、その多くがペナルティエリアの中で起こり得ます。そのエリアに数多く進入した方が良いわけですね。では、この数値はどうなっているでしょうか。

データ提供:Opta by Stats Perform

最多は広島。次いで川崎や神戸などイメージとしても共有できるチームですね。攻撃力があると言われているチームが並びます。王者の横浜FMの少なさが気になるところです。逆にC大阪や新潟が少なく、C大阪はチャンスの数も多くはありません。守備に定評のあるチームではありますが、前線のタレントがいかに引き出せるか、この数値の変動率は追っていきたいですね。

もう少し掘り下げると、ではペナルティエリアに進入するために何が必要か。手段は様々あります。ドリブルで突っかける、スルーパスを通す、サイドからクロスで入れるなど。今回はそれらを施すための「縦パス」に焦点を当てます。

まず全体のパス総数のうち、縦パスがどれだけの割合を占めているのかを示しましょう。

データ提供:Opta by Stats Perform

ここまで来るとチームスタイルが見えてきます。この割合が高いということは、縦に速いスタイルを敷いている可能性が高いです。実際に、鹿島、京都、湘南の試合を見ると当てはまります。割合が高ければ良いわけではなく、その割合の中でも成功させていかないといけません。味方のサポートがなければ失うこともあるでしょう。連動している方が良いのは当然です。では、その成功率はどうでしょうか。特に中盤から前に入れるための数値に絞ってみます。

データ提供:Opta by Stats Perform

京都の問題点はここにありそうです。割合は高いですが、特にミドルサードでの縦パスの成功率が圧倒的に低い。出し手と受け手の問題もあるでしょうし、3人目の動きが少ないかもしれませんし、相手に読まれているかもしれません。

ここまでは攻撃に関していくつかのチームを見てきましたが、次に守備です。上記をひっくり返すイメージですが、まずはピンチ数です。

データ提供:Opta by Stats Perform

最多は鳥栖。開幕戦の大量失点の影響もありますが、この数は減らしたいですね。FC東京が圧倒的に少ない数字で守備力の高さがうかがえます。あくまでピンチ数なので、失点数との相関はありません。1つのピンチで失点することもありますから。ただ総合値としての守備力を測るには分かりやすいデータでしょう。

これも少し掘り下げ、ピンチになり得るペナルティエリアに至られた相手の攻撃回数を見てみます。

データ提供:Opta by Stats Perform

興味深いのは新潟。最も多くの進入を許していますが、ピンチ数は14位。最多ではありません。最終ラインや中盤の選手がピンチになる手前で防げているのでしょう。どのチームも、守備においてはこのエリアに入れさせないように奪いに行きます。どれだけ事前に防げるか、プレスに行けるか。個人戦術の話にもなりますが、チームとして、いかに縦パスを通させないかなども必要ですね。攻撃と同様に見てみます。

データ提供:Opta by Stats Perform

縦パスを通される、狙われる回数が多いとこの数値は高くなります。ボールホルダーに圧力がかかっていないことが多いです。新潟や名古屋は守備時の圧力や選手の距離感が良いのでしょう。ここでも新潟が出てくるのは、通されてしまうとペナルティエリアまで至られてしまうという課題が見えてきます。

最後に、ボールに対しての守備のアクションを見てみましょう。

データ提供:Opta by Stats Perform

タックル、クリア、インターセプトの合算値です。ボールに対する守備のアクションですね。主体的に行わなければ起こり得ない事象です。守備の時間が長いチームほど数値は高くなりやすいです。柏はこの数値で最多なので、アクションある守備なのでしょう。また、首位の神戸は「インターセプト数」で最多。個人の能力にも左右される「読み」の守備が好調を支えているかもしれません。

少し長くなりましたが、データから各チームの状況が少し見えたでしょうか。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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