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【月刊アナリスト 開幕から4節を終えて】

2023年3月15日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

今回は、2月に開幕してから約1ヶ月が経過したため、ここまでをデータも用いて振り返りつつ、王者の横浜F・マリノスを中心にお送りします。

先に結果をおさらいすると、開幕戦では優勝争いの大本命と見られる川崎相手に2-1で競り勝ち、ホーム開幕戦では浦和を2-0で下しました。3連勝を目指しましたが広島のプレスに苦しみドローに終わると、直近の札幌戦では広島よりさらにハイプレスに来た相手に前半はシュート0に抑えられる完敗でした。

FUJIFILM SUPER CUPの甲府戦をベースに前回お送りしましたが、その時にも少し触れたように、圧倒的な強さでここまで戦えていない印象です。Jリーグの歴史を紐解いても、圧倒的な強さでぶっちぎりの優勝を果たしたチームは数少ないため、ある意味ではノーマルかもしれません。

では、データも絡めて王者横浜FMの現状や、その他チームとの比較をしつつ、新たな見方を提供できるかチャレンジしてみましょう。

データ提供:Opta by Stats Perform

まずはチャンス数とxGから。xGは様々な媒体で出始めているので理解している人も増えた印象ですが、ゴール期待値です。そのチームがどれだけゴールする可能性があったかを示したものですが、横浜FMは5と6の間に属します。実際に4試合で5ゴールですから、近しいですね。

X軸にはチャンス数を選びましたが、湘南や広島が群を抜いて多く作り出しています。それに対し、横浜FMはチャンスの数が多くありません。平均より下を記録しています。

ウイングからのアーリークロスや、インサイドを取るサイドバックの攻撃性や、ダブルボランチの運動量を生かした厚みのある攻撃など、明確な戦術が対策されている部分もあるのでしょう。

アタッキングサードまで丁寧に繋ぎながら進入するスタイルは見るものを魅了することもありますが、相手からすると分かっている攻撃ならば守りやすい部分もあるはずです。

札幌や横浜FC、柏などが狙うことの多い「ミドルサードからペナルティエリアに直接チャレンジする」ようなダイナミックさもあっても良いのかもしれません。

データ提供:Opta by Stats Perform

この数字においてはリーグで8番目。大小で良し悪しを見るものではありませんが、興味深いデータかと思います。

今まで継続してきたGKを含めたビルドアップからの丁寧な崩しは、なくしたくないはずです。昨季は、同じくパスサッカーを標榜してきた川崎にほぼ並ぶ形で「9本以上パスが繋がった攻撃回数」はリーグで突出していました。

データ提供:Opta by Stats Perform

ところが、今季はこの数字が激減しています(図4)。繋げば良い話ではありませんが、スタイルの継続と発展は課題です。逆に、上位にきたG大阪や新潟やC大阪は興味深いですね。新潟は昨年から大幅なスタイル変更ではありませんが、大阪勢は間違いなく変化しています。

データ提供:Opta by Stats Perform

サッカーの結果において重要なのはゴールですが、その過程となる繋ぎに関して、こういったデータを交えながら議論してみてはどうでしょうか。

一方で、守備面も見ていきましょう。昨年の覇者である横浜FMは、前からのプレッシングと強度は持ち味です。

データ提供:Opta by Stats Perform

タックルとインターセプトとリカバリーという守備項目の合算を出してみましたが、昨年はリーグで2番目の数字。まさに前からのプレスが機能していて、そこからのショートカウンターも驚異となっていました。京都や湘南のようにポゼッション型ではなくプレッシング型のチームは数値が多くなる傾向ですが、ボールを保持するポゼッション型にあって上位にいるのは間違いなくスタイルであり実績です。今や、どの世界のリーグでもこの敵陣での守備がキーとなりつつあります。

データ提供:Opta by Stats Perform

ところが、今季はこの数値も激減しています。リーグで10番目であり、昨季も1位だった広島とは50以上もの回数の差があります。闇雲にプレスを仕掛けても数値は計測されない中、3トップ+1トップ下で制限をかけつつ、後ろの6人で縦横のスライドを早くしながら予測してアタックできるかどうか。都度、相手によってその形や狙いは変わるはずですが、注視したい内容ですね。

対戦した広島や札幌に苦戦した例から見ても、この数値の上位陣と戦う時はより攻撃面に置いて工夫が必要でしょう。

3月18日は伝統の一戦、鹿島が相手です。どのような内容と結果になるでしょうか。上記を気にして見る必要はないかもしれませんが、これまでの見方に少しでも変化やヒントが得られたのであれば幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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