Feature

【サッカーアナリストによる月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.6】

2023年2月28日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

今回は、ボールがないところを見るタイミングについてお伝えしたいと思います。

サッカーはボールが1つですし(ほぼスポーツはそうですが)、ほとんどの時間でそれは1人が持っています。デュエルやルーズボールとなるとどちらかと定義するのが難しくなりますが、基本的には止める&蹴る人は1人です。

そうなると必然的にそのボールを持っている選手は何をするのかに注目したいので、見る側の目線はそこに行きます。至ってノーマルですね。何の問題もありません。その中で止め方や目線の持っていき方、蹴ったあとのフォロースルーなんかも確認できますしね。

では、どうしてもボールばっかり見てしまうという「よく聞く課題」に対して、どう視点を変えていくかです。

私は、特にボールホルダーに対して相手のプレッシャーがかかっていない時ほど別のところに目を向けるようにしています。仮にその選手がミスをしたとしても立て直せるので、ボールに目を向ける必要がないからです。

あるいは、プレッシャーがかかっていたとしても別のところに目を向けるケースもあります。それは、ボールを持つ選手が次にどこへ出そうとするかを自分なりに予測した時です。2手3手先の選手を見るようなイメージですね。

それは最終ラインでビルドアップしている時の中盤の選手かもしれないですし、最前線の選手かもしれません。ボールを持つ(持ちそうな)選手が、次にどこを狙おうとしているのか。まずはこの予測をし続けることで、その先のボールのないところが気になってくるといった具合です。

ゴール前も同じようなケースが出てきます。サイドでボールを持っている選手に一瞬でもプレッシャーがかかっていなかったりすれば、その瞬間にゴール前に目を向けて動き方を見ることも、同じような事例です。慣れてくれば、ボールホルダーとペナルティエリア内を交互に見続けることもできます。

では、そうしたボールのないところに目線を持っていけるようになったと仮定して、「何」を見るのかです。

まずは当然ながら選手の動きですね。準備しているのか、何も考えていないのか、次を予測しているのかどうかなど。

あとは場所です。いま自分はどこにいるのかを把握しているかどうか。ボールが飛んできそうな場所はどこかなど。

さらに相手との距離感です。いま自分は誰に見られているのか、誰を見ているのか、その相手のスピードはどの程度かなど。

これらをすべて把握するというより、どれかでも「違和感」があればとどめておくような感覚です。

もちろん、対象チームや対象選手が守備をしている時も同じです。ボールがない場所の選手は何をしているのか、何を準備しているのか、そのための視野の確保や体の向きはどうか。意外にも、選手はピッチ上でインプットの質が異なります。首を振れているからと言ってすべての情報をインプットできているとは限りません。

映像や現地で見ている時、ボールのないところに目を配りながら、実際のその後のプレーを追った時の振る舞いをもって、その選手がどんなリアクションだったか。ここまで見られるようになると、非常にサッカー観戦が面白く、逆に難しいと感じるかもしれません。

そこに楽しみを覚える人が多くなることを期待します。

エピソードを。プロクラブで働いていた時、上記と同様にボール外のところも追っていたわけですが、所属選手に試合後「ボールは来なかったけど、クロス上げられた時のポジショニングと姿勢があまり良くなかったから来たら問題あったかもね」と伝えたら「見てましたか?さすがにバレてますね」のような形でコミュニケーションを取ったこともありました。

あるいは、相手がミドルサードの左サイドでボールを持っている時、右サイドの選手の体の向きが正面になっているのを見て違和感を覚えたことがあり、別のスタッフに「いつもあの体勢なのか?」と問いてみると「何の話ですか?」のような反応もありました。いかにボールと違うところを見ているか。そこに選手やチームの成長の可能性が残されていることに気付かされました。

ボールだけを追っても良いわけですが、ボールがないところを細かく見られるようになれば、間違いなくサッカーを見るのが楽しくなります。映像を使えば巻き戻したりして全体を把握できるわけですが、リアルタイムに、それもスタジアムなど現地でこれを実践できるようになると、90分があっという間に過ぎます。ぜひ皆さんも、ボール外をタイミング良く見られるように試してみてください。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


Contact

GayaR Magazineへのお問い合わせはこちら

お問い合わせ