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【月刊アナリスト FUJIFILM SUPER CUP】

2023年2月15日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

今回は、シーズンの開幕を告げるFUJIFILM SUPER CUPのレビューをベースに、今週から始まるJリーグへの展望へと繋げたいと思います。

日本代表の活躍が記憶に新しいワールドカップから早2ヶ月。昨年のJリーグ王者と天皇杯王者がぶつかり合いました。先に結果をお伝えすれば、2−1で横浜F・マリノスが勝利してタイトルを獲得しました。ただ、圧倒的な力の差を見せつけたわけではありませんでした。ここに、今季のJリーグの面白さが見え隠れした気がします。

それは、日本代表のみならず、クロアチアやモロッコに代表されるように、昨年末のW杯で躍進したチームに共通していたソリッドな守備をベースにした戦術です。惜しくも敗れたヴァンフォーレ甲府は、昨季のJ2リーグでは18位でした。しかし、篠田新監督を迎え、システムを4バックへと変更し、非常にソリッドな守備でJ1王者を苦しめました。

前述のW杯でもそうでしたが、言葉でソリッドな守備と言うのは簡単ですが、具体的に何が良いと締まるのか。それはこの試合の甲府が見せてくれたような気がします。

4-4-2(あるいは4-2-3-1)の中で、特に前半は松本選手と佐藤選手のダブルボランチが、あまり前に出ずに呼び込む守備をしていた印象です。これは、チームの戦術でもありますが、W杯の躍進組にも共通していた部分です。

Data by Stats Perform

クロアチアやモロッコは甲府とシステムは違えど、中盤の3人が守備時に前に出すぎないことを徹底していました。それはボールを奪う上で難しくなりますが、バイタルエリアを使わせない、自分を越えた時にいち早くプレスバックで最終ラインと挟む意図もあります。この試合の甲府の前半を振り返る機会があれば、ぜひ彼ら2人のボランチを見直してみてください。

Data by Stats Perform

相手の横浜FMは喜田選手、渡辺選手、そしてトップ下の西村選手がいて、数合わせで言えば甲府からすると数的不利です。それを解消するため、ウタカ選手と長谷川選手が下がって相手のボランチを牽制し、松本選手と佐藤選手は西村選手と時折中に入ってくる水沼選手やエウベル選手といった横浜FMのウイングをチェックしていました。例えば25分のシーンのように、ハーフラインで佐藤選手がパスカットしてカウンターになりかける場面を作り出しました。これは西村選手(かアンデルソン・ロペス選手)へのパスをカットしたもので、瞬間的に渡辺選手はフリーなのですが、甲府のダブルボランチが斜めの関係を作りながら、かつ両サイドハーフと2トップの献身的なプレスによってそこへ出させないようにしたものです。こういったことを続けていれば、簡単には崩されないことを証明しつつ、J1王者を相手にシュートシーンを簡単には作らせていませんでした。

(図は横浜FMがパスを受けた位置:バイタルエリアは少ない)

ところが、面白いもので、わずかな綻びから失点するのがサッカーです。30分の得点シーンは、横浜FMの繋ぎ方としてスムーズで、立ち位置やテンポなど特筆すべきものが多数あるのですが、甲府からすると、前半で唯一と言っていいくらい「ダブルボランチが前に出てしまった」ことで起こりました。

結果として、トップ下の西村選手がバイタルエリアでフリーで前を向き、甲府の4バックの前でキープされながら崩されました。そこを突けた横浜FMの攻撃はさすがの一言でしたが、甲府からすれば悔やまれるポジショニングだったでしょう。

今季のJリーグが開幕した時、全60クラブがどんなシステムで挑むのか。蓋を開けてみないと分かりませんが、個人的に注目したいのはどんなシステムでも必ずいる「ボランチ」の守備シーンです。上記のように、1つのポジショニングミスによって失点することがあります。W杯の決勝でも起こった現象でもありますし、逆に、ボランチの守備時のポジショニングが良いと固く、結果を残してきたチームが多かったのもW杯です。

優勝したアルゼンチンは、攻撃力はもとよりエンソ・フェルナンデス、デ・パウル、マカリスターの3センターによる前にも後ろにもバランスの良い守備がありました。フランスもチュアメニとラビオにグリーズマンを加え強固でした。その他にも、モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチのクロアチアや、ウナイ、アマラ、アムラバトのモロッコや、ヘンダーソン、ベリンガム、ライスのイングランドなど、ベスト8やベスト4の顔ぶれのボランチを並べても、守備時に前に出すぎないバランスの取れたポジショニングが浮かび上がります。

W杯の上位陣の顔ぶれを見ると、上記でお気付きかもしれませんが、3センターが主流となりそうです。その形が正三角形(ダブルボランチ+トップ下)か、逆三角形(アンカー+2インサイドハーフ)かは分かれそうですが、今年のJはどうでしょうか。

奇しくも、J1の開幕戦である川崎フロンターレvs横浜F・マリノスは、互いに3センターを採用するかもしれません。興味深くチェックしたいところですね。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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