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【サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト 日本代表の軌跡】

2022年12月15日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。

今回は、クロアチアとのPK戦に敗れ、惜しくもベスト8への進出は叶わなかった日本代表のワールドカップの軌跡をお伝えしながら、次への期待と課題を残しておこうと思います。

選手選考が行われた後、カナダとの親善試合を経て、本番に挑むことになりました。カナダに逆転負けを喫し、メディアやSNS等を含めても、盛り上がりに欠けている印象でした。

時は2010年に戻ります。カメルーンとの初戦を控え、同じように直前に親善試合を行い、イングランド、コートジボワールと敗れて不安視されました。本番では、その教訓から戦術変更を行い、カメルーンを相手に本田圭佑選手のゴールで見事に白星発進となり、オランダには敗れましたが、デンマークを相手に勝利を収めてグループステージを突破しました。そして、トーナメント1回戦ではパラグアイを相手にスコアレスで、PK戦の末に敗れ去ってしまいました。ただ、あと一歩でベスト8という場所までたどり着いた日本代表には、国内外含めて賛辞が飛び交っていたのを覚えています。

時を戻します。12年経った2022年ワールドカップ。まさに同じような展開で、カナダ戦までの不安を払拭するように、強豪国のドイツを相手に初戦を勝利で飾りました。

相手は攻撃時に左サイドバックを上げる「左肩上がり」の可変式を取り入れ、日本代表の守備組織を壊しにきます。日本は4-2-3-1でスタートしたものの、両ワイドの伊東選手と久保選手が迷子となりやすく、プレスがはまらず押し込まれ続けました。それを見て、後半からシステムを変えてより守備的にし、前からのプレスを徹底させて逆転勝ちを収めました。ただこれは、アジアの最終予選では起こり得ない「守備の時間が大半を占める」展開です。これはずっと、日本代表につきまとう課題でしょう。

本番を想定して守備的に戦うとしても、アジア最終予選では最適ではありません。ベトナムやオマーンを相手に守備的に戦う姿を見て、日本国内のサポーターたちは納得するでしょうか。やはり主体的に動かす展開になり得ます。そうなると、次戦のコスタリカ戦のようなことが起こります。

相手が引いてブロック(5-4-1システム)を敷き、どうやって崩すのかを突きつけられました。ドイツやスペインを相手に守備的に戦って勝利を収めたことよりも、コスタリカを相手にリスクを負って攻撃的に出られず得点を奪えなかったことに焦点を当てることで、日本の未来が見えるかもしれません。クロアチアとの対戦も、ポゼッション率はドイツ戦やスペイン戦よりかは高く、35.7%でした。

12年前も今大会も、守備的に戦い、我慢して耐え、少ないチャンスで勝ち切る。その「教訓」と「経験」は十分なはずです。次なるステップは、今大会のクロアチアやモロッコのように、団結力を発揮して守備に追われるなら徹底的に守りながらも、自分たちがボールを保持するのを放棄せず、個の力も発揮しながら崩しのフェーズを主体的に作り出す国を模範にすることかもしれません。

ドイツやスペインなどにポゼッション率で上回ることに意味はありません。事実、クロアチアやモロッコは強豪国を相手に支配率で上回っているわけでもなく、ずっと守備に追われているわけでもありません。日本と違うのは、自分たちのやり方を「変えずに」ブラジル、ベルギー、スペイン、ポルトガルに打ち勝ってきたことです。

日本は、アジア最終予選でクロアチア戦と同じような戦い方をした試合はありません。途中からも含め、3-4-3で両ウイングバックに長友選手と伊東選手を並べたこともありません。即席の戦術やシステムでも機能しないとは言い切れませんが、やはり予選から「変えずに」成熟度を増して戦ってきた相手には、若干の差やズレで届かないことがあるということでしょう。

システムを変えてはいけないとか、固定の何かで続けるべきとかの意味でもありません。攻撃と守備で可変ならば可変で良いでしょうし、ドイツ戦のように試合中に相手に合わせてシステムを変えるなどでも良いでしょう。大事なのは、それらをずっと継続することです。

クロアチア戦は、グループステージとは異なり、先にゴールを奪ったのは日本でした。そして、追いつかれました。勝ち越し点を奪うための「変化」は、選手の交代と配置転換はあったものの、ドイツ戦やスペイン戦で見せた試合中の大幅な変更はなく、PK戦に委ねられることになってしまいました。

12年前、パラグアイを相手にPK戦で敗れたこともあり、クロアチア戦の敗戦理由を経験値のなさで片付けられない問題はあります。それよりも、日本にとっての経験値の不足はPK戦における手法等ではなく、自分たちが置かれた状況下における引き出しの少なさにあるとみます。

リードした時、リードされた時、ボールを持てる時、持てない時、システムのかみ合わせが合う時、合わない時など、様々なシチュエーションにおける共通認識を揃えること。クロアチアとモロッコにあって、日本にないものだと感じます。次のワールドカップまで4年弱。代表活動を通じてあらゆるシチュエーションを経験することが、ベスト16を乗り越える上で必要な要素ではないでしょうか。

ドイツ戦やスペイン戦の勝利によって国内の熱は少し高まったと思いますが、それもおそらく一過性でしょう。継続的にサッカー熱を燃やしつつ、今大会の日本代表戦士たちが見せた勇姿と感動を受け継ぎ、4年後に行われる北米の共同開催でベスト8以上を達成して欲しいですね。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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