Feature

【サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト 横浜F・マリノス篇vol.3】

2022年11月15日 |

【サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト 横浜F・マリノス篇vol.3】

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。定期チームレポートとして、9月期と10月期と11月期のそれぞれ上期は、私の古巣でもある横浜F・マリノスをお送りします。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

前回は、連敗を喫してしまったG大阪戦と磐田戦を引き合いに、データを少し絡めながらご紹介しました。今回は、中断明けに行われた浦和戦を中心に振り返りながら、神戸に与えた影響なども考察して、上記2試合と何が変わったのかも交えてお伝えしようと思います。

前回の話のテーマとして挙がったのは、攻撃面で言うとxG(ゴール期待値)を高めるための効果的なエリアへの進入、守備面で言うとそのエリアに入らせないことがありました。

同じように実数字を見ていきましょう。浦和戦は相手陣地に入った回数が70回。神戸戦は72回で名古屋戦に近い数値となりました(名古屋戦は73回)。ペナルティエリア内に進入した回数は、浦和戦が27回、神戸戦は21回。割合としても磐田戦の21.3%から浦和戦38.6%、神戸戦29.2%と「自分たちにおける正常値」に戻しました。

「相手陣地に入った中でのペナルティエリア内に入れた割合」
名古屋戦:38.4% G大阪戦:33.0% 磐田戦:21.3% 浦和戦:38.6% 神戸戦:29.2%

特に中断期間中に確認したであろう「積極性」は浦和戦で発揮され、上記のように進入するアグレッシブさを出しながら、先制ゴールとなったように「打つ」ことの重要性を再確認したと思います。

いくらペナルティエリアに進入しても、シュートを打たなければ入りません。一方で、遠目から(xGが低い値)打っても入る可能性は低い。その意味で、短い時間で両チームにシュートシーンが生まれた15分のシーンはターニングポイントでした。

浦和は右サイドから江坂選手がクロスを上げ、エドゥアルド選手が頭で触ってこぼれたボールを、ペナルティエリア内に進入した大畑選手がシュートを打ちました。これが決まっていれば、展開が違ったでしょうね。その直後、横浜FMはゴールキックを繋ぎ、喜田選手のフリックからアンデルソン・ロペス選手が落とし、3人目として渡辺選手が前向きに受けると右サイドにいた水沼選手に渡し、彼がボックス内にて左足で打ちました。これがアレクサンダー・ショルツ選手に当たり、エウベル選手のゴールとなりましたね。

互いに、シュートを打った位置は「同じ」でした。「ペナ角」と呼ばれるペナルティエリアの角の周辺ですね。シュートを打った積極性だけでなく、それがこぼれるかもしれないと予測して入り込めるかどうか。ちょっとした差が明暗を分けましたね。

それ以降も、横浜FMはペナルティエリアに入ってから打つことを意識していたようにも見えました。これも前回お伝えしましたが、外からの一工夫があるとより良くなるのではと提言しました。2点目となったCKを得たのは、外で受けた水沼選手が後ろをオーバーラップした小池選手を使おうとループパスで進入を試みたからです。

こうした成長(前節からの反省を確実に表現する)は、個人としてもチームとしても重要です。成長を見せることで、神戸戦の1点目は生まれたと言っても過言ではありません。

神戸戦の25分のゴールシーンですが、水沼選手が外でボールを受けた時、渡辺選手がインナーラップしようと走り出します。それと「上記の2点目の起点を知っている」神戸の左SBの初瀬選手は、渡辺選手を見るためにステイし、左SHの汰木選手が水沼選手へアプローチに行こうとしたため遅れ、クロスを許しました。

明らかに外からの一工夫を警戒した守りであり、それを逆手に取っていち早くクロスを上げたのが水沼選手でした。前節からの成長を見せることは、次の対戦相手にも影響を及ぼすということの典型だったように思えました。

一方で、浦和戦も神戸戦も、守備において突き詰める必要はありましたね。

「自陣のペナルティエリアに進入された回数」
名古屋戦:13回 G大阪戦:12回 磐田戦:8回 浦和戦:15回 神戸戦:15回

最後の2試合は進入された回数も増え、失点を喫しました。トータルとして、リーグ最少失点タイの成績ですから、言うことはないのかもしれませんが、あえて厳しく言えば、相手の進入数を1桁にし、無失点に抑え、圧倒してこそ「アタッキング・フットボール」の進化かなと見ています。

ちなみに、今年、相手の進入数を1桁にして、なおかつ無失点で勝利を収めた試合は6つ。9月の福岡戦、7月の鹿島戦、6月の柏戦、5月の京都戦、4月の鹿島戦、3月の清水戦。来季は、この試合数が「2桁」になることを期待したいと思います。

2020年に達成できなかった連覇を達成できるかどうか、今から楽しみですね。それを阻止すべく17チームがぶつかってきますから、上記は簡単ではありません。互いにアグレッシブにぶつかり合い、Jリーグ自体のレベルもスケールアップして欲しいものです。

改めて、3年ぶりのJ1リーグ制覇、おめでとうございます。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


Contact

GayaR Magazineへのお問い合わせはこちら

お問い合わせ