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ルヴァンカップ決勝を振り返る

2022年10月26日 |

2022 JリーグYBCルヴァンカップ 決勝
C大阪 1-2 広島 @ 国立競技場
10月22日(土)13:11キックオフ フジテレビ系列で全国生中継
C大阪:加藤 陸次樹 53
広島:ピエロス ソティリウ 90+6(PK),90+11(満田)

決勝前日10月21日、J3宮崎は所属する元日本代表FW工藤壮人さんが亡くなったと公表。2017年、2018年シーズンに所属した広島はベンチに9 KUDOのユニフォームを掲げ、工藤壮人さんへの黙祷にC大阪サポーター、広島サポーターがともに追悼の横断幕を広げるエモーショナルな幕開けとなった。

キックオフ直後の4分、C大阪は広島のハイプレスをかいくぐり、ボールをうまくつないで上門が持ち上がる高速カウンターで決定機を作った。右サイドの毎熊へ振ってのクロス、前線の加藤が荒木と塩谷を引っ張って作ったスペースにフリーで飛び込んだ上門が狙ったが枠を捉えられなかった。ここでゴールが決まっていればゲーム展開は確実に変わっていた。前掛かり気味でバランスが悪かった広島がこのプレーで落ち着いたのだ。16分、C大阪は左サイドを加藤が抜け出したとき、荒木はシュートコースを切りながら加藤をマークして、GK大迫のビッグセーブを引き出している。

J1第17節、J1第27節、天皇杯準々決勝。今シーズン、C大阪は広島と三度の対戦があって、三度とも敗れている。決めるべきところで決めなければ勝てないことはわかっていたはずで、勝敗を分ける最初のポイントだった。

前半はお互いにチャンスは作るもののスコアは動かず、0-0で折り返しとなった。

後半始まってすぐの53分、C大阪は広島のミスから先制に成功する。右サイドで松本にボールを奪い返されるがすぐにプレッシャーをかける。佐々木がバックパスでGK大迫に戻したところをスルスルと抜け出した加藤が奪ってGK大迫をかわし、角度のないところからゴールに流し込んだ。佐々木のバックパスが中途半端、加藤を見ていたはずの荒木は反応が遅れるなどミスが重なって広島にとっては痛い1点となった。さらに58分、C大阪は決定機を作る。GKキムジンヒョンのロングフィードを右サイド高い位置で受けた毎熊のシュートはGK大迫がセーブ。直後、毎熊のCKをフリーでヨニッチがあわせたシーンはわずかにゴール左に外れた。C大阪は反応よくセカンドボールを回収し、広島を圧倒していた。

広島はGK大迫が毎熊との1対1で撃たれたシュートをゴールラインに弾き出してピンチを広げないなど我慢強いプレーを見せた。

ターニングポイントは76分にやってきた。広島のクリアをベン・カリファとヨニッチが競り合って倒れ、ヨニッチのファールでイエローカード。VARチェックが入り、主審のオンフィールドレビューでヨニッチの右手がベン・カリファの顔に当たったとしてイエローカードの取り消しとレッドカードの提示となった。笛が鳴った後のプレーでベン・カリファの肩を押した弾みで右手が顔に入ってしまった。右手の拳を握っていたことも印象が悪かったかもしれない。不用意なプレーでの一発退場で、C大阪は10人になった。為田を下げてCBの西尾を投入してヨニッチの穴を埋めると1点を守りに入った。

アディショナルタイムはオンフィールドレビューがあったこともあり9分。C大阪がつかみかけていた優勝カップがこぼれていくポイントが訪れる。満田のCKをベン・カリファがヘディング、鳥海がクリアしようとしてハンドを取られるのだ。VARチェックが入ってのオンフィールドレビューでPKとなるのだが、鳥海はジャンプするときに左手を高く上げていて印象も悪かった。ボックス内で不用意にハンドを取られないという意識がしっかりしていれば防げたプレーだった。

広島はPKをソティリウが落ち着いて決めて同点。息を吹き返した広島は101分に満田のCKをソティリウが右足を合わせてネットを揺らして勝利をたぐり寄せた。バックパスのミスで先制点を奪われた佐々木もニアサイドで壁を作り、ゴールをアシストしている。

Jリーグ開幕から30年。広島は天皇杯決勝で6回、Jリーグ杯決勝で2回敗れて8連敗中。先週も天皇杯決勝で甲府に敗れていて、選手はルヴァンカップで相性の悪さを断ち切りたいと強く思っていたはずだ。最後の最後まで諦めずにプレーしたことが勝利につながったのではないか。チームのために自分ができることをやることが、工藤壮人さんのプレースタイルだった。広島は間違いなく工藤さんのプレーを引き継いでいる。

C大阪は2年連続で準優勝。優勝には一歩届かなかった。上門のシュートが大きく外れたこと、ヨニッチのファールが勢い余って顔に入ったこと、鳥海が左手を挙げてブロックに跳んでハンドを取られたこと。ひとつひとつは小さなことで運が悪いとも言える。けれど、このディテールを大切にすることが勝利をたぐり寄せることになるのではないか。来年、また忘れ物を取りに来られるように。

最後に、やるべきことをきちんとやることは勝利につながると証明してくれたサンフレッチェ広島、ルヴァンカップ初優勝おめでとうございます。

Profile

今里浩紀

1968年愛媛県生まれ。JFA公認C級コーチ。1982年ワールドカップスペイン大会と「キャプテン翼」でサッカーの面白さに目覚める。出版社で編集者として活動、現在はフリー。


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