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サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト 横浜F・マリノス篇vol.2

2022年10月14日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。定期チームレポートとして、9月期と10月期と11月期のそれぞれ上期は、私の古巣でもある横浜F・マリノスをお送りします。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

前回の初回は、8月と9月の試合をざっくり振り返りながら、少しだけ札幌戦の振り返りをさせていただきました。今回は10月の3試合のうち、連敗となってしまったG大阪戦と磐田戦を中心に回想しながら、残りの2試合に向けたチームへの期待を込めてお送りしたいと思います。

名古屋戦は快勝でした。手元の集計でシュート数は16本対10本と圧倒したわけではないですが、水沼選手の2ゴールを含む、途中から出場した選手のゴールも重ねて4点を奪えた。それをアウェイで達成し、札幌戦の引き分けに終わってしまった悔しさを払拭したと思います。

横浜F・マリノスのホーム・日産スタジアム

ところが、ホームで優勝の可能性もあったG大阪戦と磐田戦で連敗。ここで気になるのは、名古屋戦以上に圧倒したにも関わらず1点も取れなかったこと。

G大阪戦のシュート数は22本対8本、磐田戦は19本対6本。明らかに名古屋戦より圧倒したものの、得点期待値を表す「xG」という指標が低かった。

名古屋戦は3.5(点くらい取れたでしょうという指標)、G大阪戦は2.2、磐田戦は1.6となっていました。要は、(簡単に説明すると)どれだけ効果的なエリアでシュートを打てていたか、です。それを表したのがxGという指標なのですが、この2試合においてはシュート数が名古屋戦を上回っているものの数値が低い。つまり、効果的でないシュートがいくつかあったことを指していると思います。

では、効果的なエリアとはどこか。当たり前の話ですが、ゴールに近い方が得点になる確率は上がります。相手がいるかどうかも影響しますが、単純に遠ければ遠いほど、確率は下がります。名古屋戦の1点目は典型的にxGが高い数値を出します。永戸選手がペナルティエリアで相手の背後を取り、折り返しに水沼選手が「ゴールエリア内」でシュートを打って得点を決めました。こういったところに入れないとxGも点も量産はできません。

xGを高めることが目的ではありませんが、ゴールを取るという最大の目標に対しての指数なので、この数値を高めることは1つの物差しです。

実数字を見ていきましょう。名古屋戦は相手陣地に入った回数が73回。G大阪戦は88回で磐田戦は実に94回。ちなみにこの94回は、今季最多の数字です。ここから、いかにゴールに近いエリアに入れたか。

ペナルティエリア内に進入した回数を見ると、名古屋戦が28回、G大阪戦は29回、磐田戦は20回でした。実数字としては変わらないように見えますが、割合として見るとこうなります。

「相手陣地に入った中でのペナルティエリア内に入れた割合」
名古屋戦:38.4% G大阪戦:33.0% 磐田戦:21.3%

一目瞭然に、ペナルティエリア内に入る割合が減っています。シュートは打たないと入りませんが、どこで打つかも大事です。ペナルティエリア内でのシュート数は、名古屋戦は12本、G大阪戦と磐田戦は6本でした。半分ですね。つまり、ペナルティエリアの外からのシュートが多かったことを意味します(セットプレーは除外しているのでそれも含む)。

スタイルとしてポゼッションを高め、相手を動かしながら自分たちも流動的に動いてスペースを作り、能動的に入っていく様は見ていて楽しいと思います。そこは継続してほしい部分ですが、そこから、ゴールを決める最大の目標にして最難関の壁を破るには、名古屋戦のように「外からのもう一工夫」が必要でしょう。

その工夫がないと、効果的でないシュートをブロックされたり、不用意なパスをカットされてカウンターを受けることも発生します。守備として、攻めている時のリスクマネジメントが徹底できていないとそれを許しますし、簡単に失点することも起こり得ます。

札幌戦や名古屋戦は、相手にペナルティエリア内の進入を許したのは16回と13回で二桁ですが、無失点でした。ところが、G大阪戦はセットプレーの失点とはいえ、同データは12回、磐田戦はわずか8回ですが失点を喫しました。バイタルエリアからのパスをカットされてカウンターを招き、3対3の状況から決められましたからね。

回数を減らす作業を行いながらも、入られ方として人数をかけて守りながら人をマークする。当たり前の話ですが、当たり前にできていなければ相手が最下位でも失点します。最下位とはいえ相手もプロですからね。直近の2試合はその展開から連敗を喫してしまいましたが、いまだ首位であることはこれまでの戦いぶりと戦績の賜物です。2週間のブレイク中に細部の修正を施し、3年ぶりの優勝を決め、11月の当コラムでは祝福の回とできればいいですね。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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