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サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト サッカーの見方篇vol.1

2022年9月30日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしています。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

1回ですべてはお伝えできないので、何回かに分けて90分の見方の概要をお伝えしたいと思います。サッカーの見方と大それた題名ですが、見方は人それぞれですし、ここに記すものが正解ではありません。皆さんが見ている実践法に、下記のを照らし合わせながら、活用していただければと思います。

まず初回は、キックオフから45分(前半)までの間に、特に攻撃面で見るものを記していきます。

試合が開催される前の事前情報の部分もあるのですが、とりあえずそれは抜きにして、試合に関する0分から90分の中で見るべきものを整理します。

最初は0-15分までです。

当然、事前にそれぞれの情報を持っているか否かでここの部分の理解スピードは違うと思いますが、事前の情報を持っていないという前提で書いています。

両チームの選手を22人把握するには、10分くらい必要と思います。これは映像なのか現地なのかでも違いますね。でも15分あれば22人の背番号くらいは整理できるはずです。もちろん、もっと早くすべてを把握できた方が良いです。

あとは、カテゴリーによりますが、事前にスカウティングをしてから臨んでいるようなチームでは、監督の動きは分かりやすいです。想定外だとすると、結構序盤からテクニカルエリアに出てきて指示を出しています。ということは、何かを修正したいと思っているか、何かを選手に伝えて変更したいと感じているか。

それ以外のも含め、一旦箇条書きで出してみます。

「0-15分で見る項目例」
・両チームのシステム
・両チームの選手配置
・選手配置によるマッチアップ
・テンション(最初から上げるか)
・監督の指示具合 -準備通りか否か-
・どちらが主導権を握るか
・自分が思う両チームの弱点を見つける

黒丸のほとんどが、誰でも出来る実践方式ですが、一番下の「自分が思う両チームの弱点を見つける=見抜く」というのが難しいと思います。

「このかみ合わせだったら、ここが破れて、その穴から得点生まれるかも」

こういうのが見えてくると、プロの目線に近づいていると思ってもらって大丈夫です。もちろん実際にその通りになれば、もうプロでやっていけます(笑)。

次に15-30分です。

主に攻撃側のビルドアップについて注視します。この中から最後の崩しまでいくケースもあると思いますが、まずはここに集中します。

攻撃側ですが、基本システムを早く把握しておければ、その形から変形するのか、そのままなのか、崩すとしたら誰が動くのかなどを見ます。例えばボランチが2枚だったのに、相手が2FWで自分たちが2CB(センターバック)で数的同数だったため間に落ちるとか。

ここで注意したいのは、単にボランチはセンターバックの間に落ちる、と固定観念を持たないことです。これが相手のFWが1枚だったら降りないかもしれません。なので、相手に応じてなのか、毎回するのか、そのボランチの特徴は何なのかなどを把握した上で、なぜ変形したのかを考察しながら見ることです。

もし見られるのであれば、逆サイドの選手の立ち位置や準備の仕方まで見られると幅が広がります。チームとしてどこを攻略しようとしているのか、そのために逆サイドの選手は何を狙っているのかなどですね。

同様に、洗練されていれば、ボールを受けてから離すまでのスピードも早いはずです。受けてから味方を探していれば、それはうまくいっていない証拠なので。

これらは、相手のプレスの強度にも左右されます。相手のプレスが速ければ、プロでも判断は遅れます。視野の確保の仕方や体の向きもどうかなど個人の部分も見られれば上級者です。

「15-30分で見る項目例」

・基本の形から誰が動き出すのか
・ボールに関わるのは何人か
・逆サイドの選手は何をしているか
・裏に抜け出るのは誰か
・受けてから出すまでがスムーズか=チームとしての流れはあるか
・相手のプレスが強いか弱いか
・ロングボールかショートか
・スムーズなのは右か左どちらか

30分以降は、上記を頭にベースとして持っておいて、最後の崩しにフォーカスできます。この時間帯でも後ろからしっかりビルドアップするのであれば、もうそれは30分までに整理できているはずで、そこから最後までどう行こうとしているかをつなげられるはずです。

では、最後の崩しの部分で何を見て整理するべきか。まずはピッチのどのエリアを積極的に使うかを見ます。だいたい割合が分かれば、なぜそうなっているかを考察します。そのサイドに強烈な個を持っている選手がいるのか、相手のウイークとして捉えているのか、配球役の判断なのかなど。

その中で、特徴が出やすいのがボールに対する各選手の距離感です。トップレベルの試合でも各チームでこれが分かれます。近くに何人もの選手を呼び込むのか、ロングボールを多用するために距離感を広く保って相手を広げさせようとするのか、中央に人を多く保ちそこでの距離感を縮めて突破しようとするのかといった具合です。

ただこれはボールに対する話なので、誰でも見れます。一歩先を行くなら、逆サイドの選手の位置を把握したり、最後の崩しをしようとしているときの最終ラインの高さはどこまであがっているかなどまで見れると上級者になっていきます。

シュートに至る経緯やクロスまでのパターンなども同様に、ボールメインなので見ている人が同じ絵を描けます。ところが、それを数字で示せる人は少ないです。攻撃回数に対するクロスを使用する割合だとか、シュートに至るパターンの種類は大きく分けて○○種類だとか。もちろん、数字はあくまで数字であって、重要ではありませんが。

さらに、選手というのは30分前後で体力に差が出てきます。それがチームとして見た時、同じインテンシティ(強度)でやり続けられるのか、だんだん違う面が見えてくるのか、それによってキックオフから15分までに起こった現象はやはり偶然だったのかが判断できてきます。

「30-45分で見る項目例」

・どちらのサイドを使おうとするか
・中央はどういう時に使うか
・ボールに近い選手のボールとの距離
・逆サイドの選手の位置
・最終ラインの高さはどこか
・シュートに至るパターンは
・クロスを使用する割合は
・相手の最終ラインの背後の取り方
・攻撃時のリスク管理はタイトか

まだまだ細かい部分もあるのですが、機会があれば今度で触れていきたいと思います。あくまでキックオフから前半終了までに見るべき点の攻撃編としての概要はこういった内容です。次回は同時間帯における守備編としてお送りします。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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