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サッカーアナリストのチームレポート 月刊アナリスト 横浜F・マリノス篇vol.1

2022年9月23日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。定期チームレポートとして、9月期と10月期と11月期のそれぞれ上期は、私の古巣でもある横浜F・マリノスをお送りします。下期は「サッカーの見方」をテーマにお送りします。

シーズンの途中からスタートするので今年のこれまでの前段を飛ばすような形になりますがご了承ください。とはいえすべて飛ばすと突発的過ぎるので、8月からいきましょう。

8月はリーグ戦が24節の川崎F戦のみでした。この試合に勝つとライバルに大きく差を付けるチャンスでしたが、最後の最後でジェジエウ選手にゴールを許し敗戦。その直前に行われた広島とのルヴァンカップの結果を払拭できませんでした。これが後を引き、続くルヴァンカップの第2戦も敗れ、アジアチャンピオンズリーグの神戸戦でも敗れるなどチームにとって最難な月でした。

そして、今月です。代表ウイークの影響で今月も全日程が終わっています。結果的には、3勝2分けで負けなし。首位をキープすることに成功しました。私がいた2019年以来の優勝に向けて、10月からのラスト5に挑みます。

今回は、直近に行われた札幌戦を少し深堀りしてみようと思います。本気で分析してしまうとスカウティングになってしまうので避けますが(笑)、読者の方々が、これから横浜FMの試合を見たいと思ってくれるような内容にしたいと思います。

横浜FMの基本システムは1-4-2-3-1。1-4-2-1-3とも言えます。この試合はエドゥアルド選手が出場停止で、代わりに角田選手が起用されました。フォーメーションと名前は図を参照ください。

相手の北海道コンサドーレ札幌は、横浜FMとの対戦時はよりマンツーマン・ディフェンスを強くします。自分が所属していた時からそうでしたし、むしろ横浜FMとの対戦から変えたような記憶すらあります。今対戦でもそうでした。札幌は1トップ2シャドーでなく、ガブリエル・シャビエル選手と小柏選手の2トップで、2列目に青木選手と駒井選手、アンカーに高嶺選手を配置して完全にマンツーマンに初期設定を行いました。

こうなると横浜FMは、足元で繋ぐとなれば必ず背後に相手がいる形。諦めが早いチームであれば前線にロングボールを蹴って「逃げる」ことも選択しますが、そこは横浜FMの芯の強さ。なるべくいつも通りの下(グラウンダー)でのパス回しから敵陣への進入を目指していました。

決まった配置であれば捕まりやすいため、サイドバックであってもウイングであっても外に出たり中に入ったり工夫していましたね。ヨーロッパサッカーを見ている人は当たり前の話になってきていますが、いまやポジションはあってないようなもの。サイドバックは外にいる必要もないし、FWだから一番前にいないといけないわけでもありません。

その意味でも、前半はマルコス・ジュニオール選手も例外ではなく、トップ下の初期配置ながら前後左右に顔を出していました。ただこの試合では、ボールを受けられるシーンが少なかったですね。前半で交代となってしまったのは残念ですが、彼の今後の奮起にも期待しましょう。

横浜FMの試合を見る上で、誰がどこにいるのかをすべて追うようにすると面白いと思います。ボールに触っていなくとも、その1つのシーンで11人がどこにいたのかすべて追えたら(記憶できたら)強者です。ちなみにサッカーアナリストでも、スタジアムの上部で見ていてデータや映像を取得しながら見ていると、全部を追えていないケースはあります。作業をしながら見る経験は読者の方もあまりないと思いますが、メモとかタグ付けとかしながら把握することにチャレンジしてみても良いでしょう。

これは守備時も同じです。基本布陣は1-4-4-2ですが、ボールに合わせて誰がどこまで「持ち場を離れたか」を見られると面白くなると思います。

今の横浜FMの守備の生命線はダブルボランチの運動量です。両ウイングが前にプレスをかけることが多く、その後ろのカバーはボランチかサイドバックがするしかありませんが、主にボランチがこなすことが多いからです。

実際、前半を終えた時点での走行距離は渡辺選手が5.8km、M・ジュニオール選手が同じく5.8kmで1位。3位タイで喜田選手と青木選手が5.4kmでした。もともとサッカーはボランチが走行距離長くなります。最前線にも最後尾にも関わるからです。それを踏まえると当たり前の数値ではありますが、当たり前のように動けた中盤の3人は貢献度が高いことも意味します。彼らの動きにも注目してみてください。

細かな戦術的解説を載せることも可能ですが、長くなるのと、載せすぎるとチームに迷惑をかける可能性もあるので避けますが、次回はアップするタイミングでの直近の試合を、少しフォーカスしてお届けしたいとも思っています。Jリーグのトップを走るチームの良いところは、皆さんに共有したいですしね。

それでは、また次回お会いしましょう。

Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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