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【サッカー書籍の紹介】「レスターの奇跡」〜岡崎慎司が躍動した奇跡の物語
2022年9月13日 |

イースト・ブレス
「2016年5月2日、午後9時52分、レスター・シティが優勝することで、世界のスポーツ史上最も画期的な物語が劇的な結末を迎えた」(レスター・マーキュリー)
ブックメーカーがつけたレスター・シティの優勝オッズはエルヴィス・プレスリーが生存しているのと同じ5001倍。昨シーズンは140日間最下位で今シーズンの目標はプレミアリーグ残留。選手の総年俸は20クラブ中17番目。奇跡の残留を果たした監督をピッチ外の問題で更迭し、新監督は「無冠の名将」クラウディオ・ラニエリだった。
レスター・シティOBでワールドカップメキシコ大会の得点王ギャリー・リネカーは「クラウディオ・ラニエリ? マジか?」とTwitterでつぶやき、「クラウディオ・ラニエリはたしかに経験豊富だが、レスターにとっては陳腐な選択だ」と続けた。ギリシャ代表監督をわずか4試合で解任されたばかりでは仕方がなかった。
シーズンが始まると大方の予想を裏切ってレスター・シティは6試合無敗とスタートダッシュに成功する。GKシュマイケルは神懸かったセーブを連発し、“地球の3割をカバーする”カンテが相手ボールを奪って前線に供給すると、日本代表の岡崎慎司がピッチを走り回ってボールを繋ぎ、右サイドのマフレズは驚異的なテクニックを魅せてチャンスを演出、ヴァーディがゴールを量産、11試合連続ゴールのプレミアリーグ新記録を樹立した。
11月になると世界がレスター・シティの存在に気がついてメディアが殺到し始めた。レスター・シティが注目されたのは2012年にシェークスピアの史劇で悪名高いリチャード三世の遺骨が駐車場の地下から発見されて以来だった。シーズン開幕前に5001倍のオッズをつけていたブックメーカーの間では数百万ポンドの損失を避けるために早期換金を提案するところが出てきた。創設以来132年リーグ優勝なしのクラブが優勝するかもしれないとブックメーカーも考え始めていた。
3月になると、レスター・シティは「2番目に好きなクラブ」になり、世界中が「レスター・シティに優勝してほしい」と願っていた。何週も何週も勝ち続けて、ファンはルイ・アームストロングの「When You’re Smiling(君が笑えば)」を謳い上げた。そして、2016年5月2日、優勝を争っていたトッテナムがチェルシーと引き分けたことで、レスター・シティの優勝が決まった。激動のシーズンを記録したレスター・マーキュリーの記者でさえも、「本当に起こったこと」なのかと自問自答するほどのロマンがこの本いっぱいに詰まっている。
この物語は「Goal!」の脚本家エイドリアン・ブッチャートがプロデューサーとして映画化され、2023年「Fearless」が公開される。

Profile
今里浩紀
1968年愛媛県生まれ。JFA公認C級コーチ。1982年ワールドカップスペイン大会と「キャプテン翼」でサッカーの面白さに目覚める。出版社で編集者として活動、現在はフリー。