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【月刊アナリスト 今季の横浜F・マリノス】

2023年12月18日 |

サッカーアナリストの定期マガジンとして毎月2回、決まったチームや決まったテーマでお送りしていきます。

上旬は昨季王者の横浜F・マリノスを中心にお送りしています。

シーズンはヴィッセル神戸の優勝に終わり、横浜FMの連覇の夢はまたしても叶わず。それでも、最後まで優勝争いを演じ、ファン、サポーターの方々を楽しませてくれましたね。

文字数の関係でシーズンの振り返りを細かく、節ごとにお送りすることはできませんが、総括としていくつかのデータとともに振り返りたいと思います。

攻守2つずつのデータだけ掲載します。

データ提供:Opta by Stats Perform

まずはポゼッション率とゴール数をプロットした図です。アタッキングフットボールを掲げる上で、ボールを支配することとゴールを決めることを同時にあげていくことは必須です。

その意味ではデータでも証明されたように、リーグ2位のポゼッション率とリーグ1位の得点力を記録しました。ポゼッション率が高ければ勝率が高まるわけでも、低ければ勝率が低くなるわけでもありません。あくまで、自分たちの求めるスタイルを体現できていたかどうか。これを推し量ったときに、見事に達成できていたと言えるでしょう。

典型的なのはアビスパ福岡だと思いますが、ポゼッション率はリーグ最低値でも、順位は7位。彼らが掲げるオーガナイズされた守備と、連動性ある効率的かつ効果的な攻撃がマッチしていたのだと思います。

データ提供:Opta by Stats Perform

来季に向けた課題は、サイド攻撃の活性化でしょう。水沼選手を筆頭にクロスから大量点を導き出した2022シーズンの優勝時(2022年時のクロス数はリーグ3位)とは異なり、今季は(オープンプレーでの)クロス数がリーグで9位。成功率は7位でともに高水準とはならず。

タイプの異なるヤン・マテウス選手の起用や、相手の対策が厳しくなったことなども要因でしょう。

もちろん、得点数がリーグ最多なので大きな問題ではないですが、対策の対策を施せるかどうかですね。その意味では、アジアチャンピオンズリーグでのゴールシーンのように、両ウイングによる「中央のスルーパスから」得点を決めていくスタイルや、王道の「サイドバックのオーバーラップ」などを確立していくかもしれません。

守備に関しては、当コラムでも以前に取り上げたこともありますが、いかに強度を取り戻し、自陣深くに進入させる回数を減らせるか。

データ提供:Opta by Stats Perform

トランジションの早さは持ち味としていて、相手にゆっくり何本もパスを回させるような「ブロック守備」を採用していないこともあり、相手が9本以上のパスを繋げた攻撃回数はリーグで5番目に少ない数字。

これは世界的にもその傾向にあり、リーグ上位陣は相手にパスを回させない素早いプレッシングがあります。

データ提供:Opta by Stats Perform

参考までに今季のプレミアリーグの同データを掲載しています。自明ですね。

横浜FMの話に戻しますが、そうしたトランジションやプレッシングの早さは持っていても、失点が減るわけではありません。少ないパスで前進されてしまったり、リスクマネジメントの問題でカウンターを受けることもあります。

どれだけ自陣深くに進入させないか、されたとしてもいち早く封じられるか。それを示すための図は下記です。

データ提供:Opta by Stats Perform

これは図の右にいくほどディフェンディングサードに進入されたことを示し、上にいくほどそこでのパス成功率が高い(=繋がれている)ことを指します。

ここでもそれぞれのチームの特徴が出ていますが、優勝した神戸や3位のサンフレッチェ広島の数値の少なさを見れば、やはり進入される回数が多く、パスも繋がれていることが多いと出ています。表裏一体で、前線からのプレスをはがされなければ奪ってからの攻撃が可能ですが、失敗に終わったときに後ろの手薄さをつかれて進入されていたのでしょう。

実際、4バックと2ボランチだけで守るケースは何度も散見されましたし、間違いなく修正が必要な事象だと感じます。来季は新監督の元でどういったサッカーが展開されるのか、楽しみに待ちたいと思います。

今回で、この月刊アナリスト(上旬コラム)もラストとなります。長らくのご拝読、ありがとうございました。

ここで書き切れない細かい話や動画解説などはオンラインサロンで展開していますので、ご興味あれば検索してみてください。

それでは、また次回(下旬)お会いしましょう。

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Profile

杉崎健

1983年6月9日、東京都生まれ。データスタジアム株式会社を経て、2014年からヴィッセル神戸の分析担当に就任。2016年はベガルタ仙台の分析担当を務め、2017年から2020年までは横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、フリーのサッカーアナリストに転身し、Twitterやオンラインサロン運営などでも活動している。


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